アリスⅨ謀反
アリスⅨ謀反
アリスのオリジナルアルバムで初めて三人の顔をジャケットに使い、ローマ数字以外のタイトルを付けたアルバム。アリスがマンネリ化を打破するために、活動停止を宣言して出したアルバム。「革命」ではなく「謀反」という言葉を使っている点で、彼らの激しい気持ちが伝わってくる。
1.WELCOME
アルバム全体をコンサートに見立てて、コンサートのイントロとして女声コーラスだけの曲。どんなコンサートが始まるのか期待を抱かせる曲。
2.LIBRA ー右の心と左の心ー
この時のアリスの心情をストレートな歌詞で表現している。前に進もうとする心と現状維持しようとする心の葛藤を激しいドラムのリズムと、叫ぶボーカルと力強いサックスで一体化している。私は進むべきかとどまるべきか、迷ったときには必ず、この曲が頭の中を流れてきて、自分自身に問いかける。
3.荒ぶる魂(Soul on Burning Ice)
「この街を灼き尽くせるか 俺達の歌は」という出だしの歌詞を初めて聴いた時は痺れてしまった。もちろん、アリスの曲に私の心は灼き尽くされている。それでも彼らは自分達に問い直しているのだ。自分の仕事が十分なクオリティーを保っているかどうか、自問自答しているのだ。私もこの曲を思い出しては、時々、自問自答する。
4.SILENT MANー静かなる男ー
古今東西、死刑執行直前の死刑囚の曲はこれだけだろう。昔、何らかの裏切りにあい、愛する人を殺して死刑囚となった男が従容として13段の階段を登る。谷村新司のカウントダウンが印象的だ。
5.MOON SHADOW
月光の下、細いロープの上を目隠しして綱渡りする。普通有り得ない光景だ。ロザリオやマリアなどの光景と生ギターの音色が、象徴的で不思議な心象風景を描き出している。苦しく先の見えない人生を象徴的に描いた佳作。
6.ハドソン河-Hudson River-
都会に憧れ、母に捨てられた寂しい父を忘れ都会で生活するうちに、都会生活に疲れた男。そんな彼に突然父の死を知らされる。失って初めて父の大切さを知る。こういう思いを、全ての子供は抱くのだろう。
7.マリー・ダーリン-Mary Darling-
かつて愛し、別れたマリーに街で偶然出会う。男はマリーを忘れられない。それどころか嫉妬のあまり憎しみが増えるばかりだという。出だしで堀内孝雄が「マ~リー・ダーリ~ン」と叫ぶ声が、哀しい男の心の叫びだ。
8.I.C.WORLD
コンピュータが発達して人が心を忘れてしまう危険性を歌った歌。アリスにしては珍しく、世相を批判している曲だ。「そのうち愛のささやきもボタン一つ 指先で押せばOK」という便利だが心の亡んだ世界の恐ろしさを描いたSFチックな作品。
9.CAT IN THE RAIN
MOON SHADOWと同様、心象風景と実際の光景を象徴的に描いた詩的な作品だ。雨に濡れる猫と傷心して孤独な「私」の心を重ねて描き出している。1981年、高校生の私がこのアルバムを初めて聴いた時は、この曲とMOON SHADOWは、歌詞の意味が全くわからなかったが、年齢を重ねてきて、この2曲の歌詞の奥深さがよくわかってきた。
10.エスピオナージ-Espionage-
1981年11月7日のアリス活動停止前最後のシングル。Espionageというのは、スパイのことだ。スパイゆえに人を愛することもできず、敵国のどこかで追い詰められて銃に撃たれて死ぬ・・・。そんな男の運命を描いた作品。
アリス最後のシングルなので、発売当日、レコード屋に買いに行き、すぐ聴いたが、期待が大きかったからだろうか、最後のシングルとしては、がっかりした。
11.風は風-Windy or Breezy-
「ああ、君たちの熱い思いが俺たちの誇りだ」という部分を聴いたとき、体中のふるえが止まらなくなった。そして、今でもこの部分を聴くと、体が震える。それほど心にずしんと響いた曲だ。お客様の喜びや感謝が、歌を提供するアリスの喜びであることをストレートに歌った曲だ。
そして、自分が仕事を持ったとき、自分がアリスの立場に立つことになり、この歌詞を実感するようになった。そして仕事に行き詰まったとき、私は今でもこの部分を思い出し、自分自身を奮い立たせることがある。
暖かい日だまりにいれば楽だし、まだしばらくはいられるだろう。だが、アリスはあえて、強い向かい風の中に飛び出していく。そんな強い決意とファンへの感謝を素直に表現した、アリス最後の曲にふさわしい名曲だ。