■山岸俊男 (著), メアリー・C・ブリントン (著)
■リスクに背を向ける日本人 (講談社現代新書) [新書]
■出版社: 講談社 (2010/10/16)
■ISBN-10: 4062880733
■ISBN-13: 978-4062880732
■発売日: 2010/10/16
リスクをゼロにしようとして、結局、自縄自縛になっているのが最近の日本ではないか、と何となく感じてはいたが、その感覚をわかりやすく説明している本だ。対話形式なので読みやすい。リスクに対する日米の社会のあり方の違いをとてもわかりやすく説明している。
日本は、一度リストラされるとそこでおしまいな社会。一方アメリカはリストラされても新しい仕事を探すチャンスがある。
日本では、環境が変わったときに新しいシステムを作ろうとしない。自分がなじんでいる元のシステムに戻せと要求したり、古いシステムが崩壊することの不安や恐怖にかられて、ますます古いシステムにしがみつこうとする。
このあたりの説明は、江戸時代の田沼政治と寛政の改革を対比するとわかりやすいと思った。農業中心の時代が終わり新しい産業としての商業に目をつけた田沼意次と、古いシステムにしがみつき寛政の改革を進めた松平定信。
直近だと、円高やTPPを敵視するマスコミの論調も同様だと思う。
「家族についての伝統的な考え方を持ち続けている国ほど少子化が深刻」という説明や、"収益"や"費用"で子供を持つか持たないかの説明はとてもわかりやすいし納得できる。
ウィークタイズ(緩やかなつながりの人間関係)とストロングタイズ(強いつながりの人間関係)の話も興味深かった。Facebookはウィークタイズ社会のアメリカでできたツールだから、ストロングタイズの日本では、どこか抵抗があるのだろう。
規則に対する「建て前」と「本音」のズレの議論も面白かった。実現不可能な目標を立てておいて、違反するのが当たり前だが、どの程度の違反までが許容範囲なのかを暗黙のうちに共有しており、規則を現実に合うように変えないのが日本のやり方だ。
本書は、現代日本の閉塞感がどこから来ているのかを、最も的確に説明している本だ。残念ながら、現実に対する処方箋は、あまり示されていない。だが、原因がわかれば、対処方法は自分で考えても見えてくる。
本当は政治家や官僚に本書を読んでもらいたいのだが、リスクを恐れるばかりの日本の政治家や官僚が法律を整えるまで待っていては本当に日本は再生不能になってしまうだろう。その前に自分自身で処方箋を考え、先行者利益を得るつもりで行動していった方がいい。