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井上雄彦(吉川英治原作)『バガボンド』

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井上雄彦(吉川英治原作)『バガボンド』全37巻

吉川英治宮本武蔵』を原作にした井上雄彦の『バガボンド』全37巻。

巌流島での宮本武蔵佐々木小次郎の戦いがいよいよ迫るところで未完に終わっている。

本位田又八のどうしようもない性格やその母親のキツい性格は原作通りだ。お甲や朱美や沢庵禅師や本阿弥光悦やおつうさんや弟子の城太朗や伊織もほぼ原作通りのキャラクターで登場する。

吉川英治原作の『宮本武蔵』に井上雄彦独自の脚色がなされている。

例えば、最大のライバルである佐々木小次郎は聾唖者で、鐘捲自斎に育てられ、伊東一刀斎の弟弟子となり、関ヶ原の戦い宮本武蔵とすれ違う。吉岡清十郎吉岡伝七郎や宝蔵院の僧侶達の性格や戦いに独自の脚色をしている。

佐々木小次郎を聾唖者に設定することで、感覚に制限がある分、より純粋に、剣の道を会得していくことができる。宮本武蔵との対比する上で効果が出ていると思う。

宝蔵院胤舜には一度敗れるが、それは胤栄の計らいにより記録に残さないこととされた。胤栄も武蔵との戦いで勝負だけではない武道の精神性に気づき成長する。

柳生石舟斎宝蔵院胤栄の方向性と伊東一刀斎の方向性が真逆に描かれている。

前者は禅の影響を受け、より精神性を高めた次元を求める。後者はあくまで戦闘術を極める。武蔵は柳生石舟斎宝蔵院胤栄の影響を受け、徐々に前者の道に気づき向かいつつある。佐々木小次郎は、兄弟子である伊東一刀斎の手を斬り、彼の影響を受け、持って生まれた天分もあり、後者の方向を極めつつある。

吉川英治原作では法典が原で農業した話があるが、本作でも場所は違うが農業をする。そして土との戦いで気づくことや人に頭を下げることを学ぶ。

 

いよいよ巌流島での戦いが近づいたところで井上雄彦の筆が2015年に止まってしまった。小次郎を聾唖者にしたために武蔵を超えた剣の感覚を会得したことで、巌流島の戦いで武蔵に負けるための説得力ある戦いを描くなったのだろう。第37巻の時点では小次郎の剣の方が技術的には高いところにいるように描かれている。通説通りに、時間に遅れても、37巻までに描かれた小次郎の性格だと気にしなさそうだし、「小次郎、敗れたり!勝つつもりなら鞘を捨てるはずがない!」と叫んだとしても、聾唖者の小次郎は全然反応がないだろう。

小次郎が到達した技術的なレベルを超える何かがないと武蔵が勝つ説得力がない。

井上雄彦の脚色の結果、武蔵が勝つための理由がなくなってしまったのだ。

何か見つけてぜひ続きを描いてほしいものだ。