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新谷かおる『ソニック・デザーター』朝日ソノラマ(1980/01/30)

新谷かおるの、飛行機乗りに関する7編の物語を集めた短編集だ。

もくじは以下

ソニック・デザーター』は、新型機のテストとして実弾を積んだ他の戦闘機と戦わせるという話。事前にそのことを聞かされなかったテスト・パイロットは生き残るために敵国に亡命する。

パイロット養成は戦闘機より高い費用と時間をかけるのだから、そんなことありえないストーリーだ。

『メカニック・ジェミニ』は双子のパイロットの兄敵国に亡命した。その兄弟が実戦で相まみえる話。何でも弟に勝ってきた兄が最後に弟に負けて撃墜される悲しい話だ。

『ファイター2119』は、名誉ある100回出撃にあと少しと迫ったパイロットだが、撃墜されてしまった。だが、その頃の戦争は実際に命のやりとりをせず、「高度に電子化されたシュミレーター」(*)による戦争だったのだ。現実には機械が人間の命を奪う戦いになりそうだが・・・。

 

『試作番号3000』は、震電ジェット機型に乗る謎のパイロット。昭和20年8月15日の敗戦で試作番号3000が震電ジェット機型ではなくサイボーグ化されたパイロット自身だった。敗戦で彼はいずこかへ飛び去って行った・・・。

『定期便101』は、パイロットになれなかった男が客として、飛行学校時代の友人が操縦する旅客機に乗り込む。しかし、電気系統の事故で操縦席にいる人達が死んだり重傷を負う。彼は必死に着陸させる、乗客を救う物語。

『ラスト・フライト』は、戦争中、五式戦に乗って戦闘中に洋上に出てしまい方向がわからなくなったパイロットが、桜の匂いで帰還した。彼は戦後旅客機のパイロットとなり、退職するので最後の操縦をする。その時何かが操縦席に衝突した。視力を失った彼は地上からの音を頼りに着陸させた。操縦席にぶつかったのは人工衛星のかけらだった。

『ホット・ミッション』は、日本が核武装した世界で、核攻撃を受ける時に、パイロットが核ミサイル発射ボタンを押すことを命令される。躊躇しボタンを押せない。その間に国籍不明機から東京に核ミサイルが発射されてしまう・・・。だが実際にはこれは「感応型シュミレーション」(*)によるテストだった。これまで80名中72名が核ミサイルのボタンを押せなかったらしい。

 

機械と人間の関係をテーマにした短編を集めた佳作だ。

 

(*)本来「シミュレーター」「シミュレーション」が正しい。原文が「シュミレーター」「シュミレーション」となっている。1980年代らしい誤記だ。