『心を撃て!』(脚本協力 香川まさひと) (『ビッグコミック』2024/12/10号)
40ページ
依頼者:元警察外事課に勤めていて鬱病でやめた佐伯
ターゲット:元小白井病院院長で現銅屋精神科病院院長の小白井高志
依頼金額:2000万円
殺害場所:日本
殺害人数・相手:0人
H:0人
遠くに山が見える郊外の団地でテレビを見る佐伯。腹を立てた佐伯はテレビの電源を止め、リモコンを放り投げた。
テレビ番組では、ある精神病院での看護師による患者への暴力が映し出されていた。
翌日、パン工場で働く佐伯の同僚が、その番組について、おしゃべりしている。
暴力をふるった看護師は全部で5人。佐伯は警察外事課にいたが、警察をやめた後そのパン工場で働いていた。
佐伯は、テレビに映った銅屋精神科病院のホームページを調べたり、テレビの再放送を見たり、病院のクチコミを見たりしていた。
銅屋精神科病院のホームページには院長の名前が書かれていない。
クチコミサイトによると、20年前に40人以上の患者が原因不明でなくなった小白井病院事件を起こした小白井高志が、銅屋精神科病院の院長だった。
20年前、佐伯の妻かおりは心の病で小白井が院長の精神科病院に入院し、心筋梗塞で亡くなった。その後、40人の患者が不審死だったと判明し、かおりもその一人だった。
20年前、小白井を殺そうと思った佐伯だったが、殺さなかった。
妻を亡くした佐伯は鬱病になり警察をやめた。
今、佐伯は、小白井に殺意を持っているが、児童養護施設にボランティアでパンを配っていた。だから自分の手で小白井を殺せないのだ。
かおりと病室が同室だった画家の森亜矢子の作品をかおりが譲られていた。その作品は今まで世に一度も出ていない作品で2000万円で売れた。
佐伯はゴルゴ13に会って「小白井の心を撃つ」よう依頼した。
ゴルゴ13は「そんな抽象的な対象を撃つことはできない。」と断った。
その上、「お前の心は晴れるのか?」「論理矛盾してないか?」「心をなおすことができると言う。だったらその精神科医の心もなおせるんじゃないのか?」と質問を続ける。
ゴルゴ13は、依頼主の心に関心はないし、心をなおすことができるかについても興味がない。ただ、佐伯のようなクライアントは実行直前になって中止してくれと言うことが多い、と言う。契約とは、ゴルゴ13とクライアントは対等で、心の迷いで契約が反故にされることをゴルゴ13は好まない。
ゴルゴ13は、小白井はプロではない、と断言する。
その上で、狙撃を依頼するなら、佐伯の心が変わらないと誓えるなら、明日の正午までに約束の金額を口座に振り込め、と命じて去った。
タワマンで、小白井とその友人が、テレビでたたかれたことについて、話している。小白井は、逮捕も医師免許剥奪もない、と断言する。人工透析も扱える精神科病院であること、他の病院で受け入れない患者を診てきたことを都も区も知っていると豪語する。
友人が小白井に、窓際に10秒立ってみろ、狙撃されるかもよ、とけしかける。
10秒経過しても小白井は無事だった。
佐伯が売った森亜矢子の作品は小白井が買っていた。
佐伯は、児童養護施設に2000万円を寄付していた。
そして、佐伯は銅屋精神科病院の前に、プラカードを持って、廃院になるまで死ぬまで立つつもりだった。
「私は、この男の心が変わるまで撃ち続ける。」と佐伯は心の中でつぶやくのだった。
[感想]
ゴルゴ13が狙撃をしないし、話の中で誰も死なない珍しい短編だ。
病院や学校や養護施設などの閉鎖空間では、暴力や虐待が発生しやすい。
そんな中で起こった事件については、表沙汰にならないことが問題だ。
そういうことが徐々に表に出て来て社会問題になってきたのはいいことだ。
この話では、プロや契約への考え方や、依頼者の心が変わりやすいことなど、ゴルゴ13が饒舌だ。
これまでの『ゴルゴ13』にない珍しい短編だ。