haruichibanの読書&視聴のおと

読書メモや映画やテレビ番組視聴メモです

鈴木 博毅 『「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』

■鈴木 博毅 (著)

■「超」入門 失敗の本質 日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ [単行本(ソフトカバー)]

■出版社: ダイヤモンド社 (2012/4/6)

■ISBN-10: 4478016879

■ISBN-13: 978-4478016879

■発売日: 2012/4/6

 ロングセラーの『失敗の本質』を元にビジネス・パーソン向けにわかりやすく解説した本。

IBMのシステム360とマイクロソフトWindowsを混同している点があるなど、事例に所々間違いがあるが、『失敗の本質』を再読したい、と思わせる。また、大東亜戦争を知らない世代には、『失敗の本質』は、どうしてもなじめないだろうが、本書なら、十分、実感を持って読めるだろう。

 『失敗の本質』から23個のテーマを取り出し、同書をまとめ、ビジネス事例と組み合わせて解説している。

1章 戦略性

 戦略の曖昧さ=目標達成につながらない勝利

01 戦略とは、いかに「目標達成につながる勝利」を選ぶかを考えること。日本人は戦略と戦術を混同しやすいが、戦術で勝利しても、最終的な勝利には結びつかない。

 石原莞爾=国家の国力、生産補給力で勝敗が決まる

 日本軍=どこかの戦場で大勝利すれば勝敗が決まる

 戦略とは、「追いかける指標」

 戦略決定とは、「追いかける指標を決める」

 指標を正しく決める=「目標達成につながる勝利」を決めること

 戦術とは、戦略を実行する各種の行動

02 勝利につながる「指標」をいかに選ぶかが戦略である。性能面や価格で一時的に勝利しても、より有利な指標が現れれば最終的な勝利にはつながらない。

インテルと日本の半導体メーカーの例

03 「体験的学習」で一時的に勝利しても、成功要因を把握できないと、長期的には必ず敗北する。指標を理解していない勝利は継続できない。

日本軍 経験から偶然気づく=>指標の発見 体験的学習察知=>勝利に内在する指標を理解せず、再現性がない=>成功体験のコピーに陥る。一点突破、全面展開

米軍 敵味方の行動分析=>指標の発見 勝利につながる効果的な戦略を選ぶ=>常に戦略があることで勝利の再現性がある。空母・輸送船の撃沈。無意味な戦闘回避

例:ホンダのスーパーカブ

例:伊那食品工業

例:マイクロソフト

マイクロソフトの例は著者が誤解しており、いい例ではない。しかし、日本企業が、「古い指標を追い続け、新たな指標に敗北する」、グローバル企業が、「従来の指標を覆す新指標で圧倒的に勝利する」のは正しいといっていいだろう。

04 体験的学習や偶然による指標発見は、いずれ新しい指標(戦略)に敗れる。勝利体験の再現をするだけでなく、さらに有効な指標を見つけることが大切。競合と同じ指標を追いかけても、いずれ敗北する。

2章 思考法

日本=練磨・改善により達人を生み出す

米軍=既存の戦闘を無力化する新モデルを生み出す

05 日本は一つのアイディアを洗練させていく練磨の文化。しかし、閉塞感を打破するためには、ゲームのルールを考えるような、劇的な変化を起こす必要がある。

米軍の達人を不要にする「システム思考」

1ヒトによる創造的破壊

2技術による創造的破壊

3運用方法による創造的破壊

例:iPodiTunes

06 既存の枠組みを超えて「達人の努力を無効にする」革新型の組織は、「人」「技術」「技術の運用」の三つの創造的破壊により、ゲームのルールを根底から変えてしまう。

シングルループ学習=目標と問題構造を所与ないし一定とした上で最適解を選び出す学習プロセス

ダブルループ学習=想定した目標と問題自体が違っているのではないかという疑問・検討も含めた学習プロセス

07 ダブルループ学習で疑問符をフィードバックする仕組みを持つ。「部下ぎ努力しないからダメだ!」と叱る前に問題の全体像をリーダーや組織が正確に理解しているか、再確認が必要である。 

3章 イノベーション

タラワ島の例:砲弾360トン 爆撃90トン日本軍陣地正面1メートルに3発

堀栄三参謀 鉄量という指標が威力を発揮させない戦闘法への切替

1944年のペリリュー島や1945年の硫黄島

イノベーションを創造する3ステップ

ステップ1 戦場の勝敗を支配している「既存の指標」を発見する

ステップ2 敵が使いこなしている指標を無効化する

ステップ3 支配的だった指標を凌駕する「新たな指標」で戦う

例:アップルのスティーブ・ジョブス

例:日本の家電メーカー

08 イノベーションとは、支配的な指標を差し替えられる「新しい指標」で戦うことである。同じ指標を追いかけるだけではいつか敗北する。家電の「単純な高性能・高価格」はすでに世界市場の有効指標ではなくなった。

09 日本人は体験的学習から過去いくつものイノベーションを成し遂げてきたが、計画的に設計されたイノベーションを創造するためには、既存の指標を見抜き、それを無効化する新しい指標をダブルループ学習で見出す必要がある。

あらゆる成功の起点は「勝利するために必要な指標」を見抜く眼力。

例:インテルと日本の半導体メーカー。

例:コダック富士フィルム

10 イノベーションは既存の戦略を破壊するために生み出されており、効果を失った指標を追い続けることは、他社のイノベーションの餌食となることを意味する。高性能とイノベーションは偶然重なることもあるが、本来は別のものである。

4章 型の伝承

11 日本軍と米軍の強みの違いが、大東亜戦争の推移と勝敗を決定した。「型の伝承」のみを行う日本の組織が「勝利の本質」を伝承できていないことで、強みを劣化・矮小化させて次世代に伝えている。

例:インテル

12 戦略を「以前の成功体験をコピー・拡大再生産すること」であると誤認すれば、環境変化に対応できない精神状態に陥る。「型のみを伝承することで、本来必要な勝利への変化を全否定する歪んだ集団になってしまう。常に「勝利の本質」を問い続けられるれる集団を目指すべき。

例:レーダー開発

13 一人の個人が行うイノベーションでさえも、組織の意識構造によって生み出されるか、潰されるかが左右される。「型の伝承」から離れ、「勝利の本質」を伝承する組織になることで初めて、所属する全ての人間が変化への勝利に邁進できる集団となる

5章 組織運営

日本軍の組織運営の失敗に共通する点

1 上層部が「自分たちの理解していない現場」を蔑視している

2 上層部が「現場の優秀な人間の意見」を参照しない

日本軍の上層部の特徴

1 現場を押さえつける「権威主義

2 現場の専門家の意見を聞かない「傲慢さ」

14 あなたが「知らない」という理由だけで、現場にある能力を蔑視してはいけない。優れた点を現場に見つけたら自主性・独立性を尊重し、最大・最高の成果を挙げさせる。

アーネスト・キングの人事システム

 1優秀な部員を選抜できる(中央だけでなく最前線の優秀な人材も発見できる)

 2たえず前線の緊張感を作戦本部に導入できる

 3作戦策定に特定の個人のシミがつくことがない

 4意思決定のスピードアップが可能になる

戦果につながる人事システム

 1有能な者の能力をフルに発揮させ、かつ知的エネルギーを枯渇させない人事を採用

 2実戦で優秀さを証明した少数の者に、重要な仕事を集中させて戦果を極大化した

=>1作戦の策定、準備、実施の各段階における迅速さ

 2現場を正しく知った意思決定

の実現

日本軍大本営 一方通行・不適切な評価制度

 司令部

  1上層部が固定化

  2教条主義に陥る

  3同一パターンの作戦

  4緊迫感がなくなる

  5戦略発見力の喪失

 現場

  1何を言っても無駄というあきらめ

  2結果を出しても評価されない

  3やる気が下がる

米軍司令部

 約一年てで人員交替

 司令部

  1本当に優秀な人材の発見

  2現場の実情を正確に把握

  3現場に個人のシミがつかない

  4現場を活かした意思決定

  5新たな戦略の発見が容易

 現場

  1絶えず緊張感がある

  2結果を出せば評価される

  3モチベーションがアップ

15 米軍は作戦立案をする中央の作戦部員が、現場感覚と最前線の緊張感を常に失うことなく侵攻に邁進できた。現場の体験、情報を確実に中央にフィードバックし、目標たっの精度と速度をさらに高めていく仕組みを作ることが重要である。

1戦場てま迅速な行動力と勝利への執念がある人物は高く評価される

2非効率で行動が遅く、成果を上げない人物は降格される

人事評価とはそしきに対するメッセージ

日本軍大本営

 やる気さえ見せていれば、責任は問われない=>保身と無責任が蔓延していく組織

米軍司令部

 

16 厳しい課題に直面していたら、「お飾り人事」を徹底排除し、課題と配置人材の最適化を図ること。能力の無い人物を社内の要職にほうちすれば、競合企業を有利にさせる以外の効能はない。

  

6章 リーダーシップ

トップが激戦地(最前線)を自分の目と耳で確認するメリット

1情報が階層にフィルタリングされて、歪んだ形でしか伝わってこないことを避ける

2決定権者が最前線の問題を直接知ることで、改善実施のスピードが段違いに速くなる

3誤った情報を基に、不適切な対応を続けている状態を見破る機会となる

4問題意識が一番強い人物が現場に足を運ぶことで、新たなチャンスを発見する

5現場のスタッフとの意思疎通と、最前線の優れたアイディアをトップが直接検討できる

17 組織の階層を伝わってトップに届く情報は、フィルタリングされ担当者の恣意的な脚色、都合のいい部分などが強調されていることが多い。問題意識の強さから、優れたアンテナを持つトップは、激戦地(利益の最前線)を常に自らの目と耳で確認すべき。

チャンスを潰す人の特徴

 1自分が信じたいことを補強してくれる事実だけを見る

 2他人の能力を信じず、理解する姿勢がない

 3階級の上下を超えて、他者の視点を活用することを知らない

結果を重視するリーダーが自らに問うべき質問

「私自身が組織の限界となっているのではないか」

例:日産

18 愚かなリーダーは「自分が認識できる限界」を、組織の限界にしてしまう。逆に卓越したリーダーは組織全体が持っている可能性を無限に引き出し活用する。

例:コンチネンタル航空

19 「間違った勝利の条件」を組織に強要するリーダーは集団に混乱を招き、惨めな敗北を誘発させているだけである。求める勝利を得るためには、「正しい勝利の条件」としての因果関係に、繊細かつ最大限の注意を払うべきである。

日本軍人は、

1思索せず

2読書せず

3上級者となるに従って反駁する人もなく

4批判を受ける機会もなく

5式場の御神体となり、

6権威の偶像となって

7温室の裡に保護された

自己革新型組織の原則

 1組織に緊張を創造すること

  1客観的環境を主観的に再構成あるいは演出するリーダーの洞察力

  2異質な情報・知識の交流

  3ヒトの抜擢などによる権力構造のたえざる均衡破壊

日本軍人=(居心地のいい安定を許さない仕組み)は、

1思索を行い

2読書をして、

3上級者になっても反駁する人がおり

4批判を受ける機会を常に持ち

5式場の御神体とならず

6権威の偶像ともならず

7風雨の激しい現場にも駆り出される

堀栄三参謀

問題への使命感

危機感

覚悟の強さ

楽しくないことにあえて真正面から正対し、聞きにくいことを聞き、言いにくいことを伝える

20 「居心地の良さ」とは正反対の、成果を獲得するための緊張感、使命感、危機感を維持できる「不均衡」を生み出す組織が生き残る。指揮をとる人間には「見たくない問題を解決する覚悟の強さ」が何より要求される。

7章 メンタリティ

「空気」の悪影響

1本来「それとこれとは話が別」という指摘を拒否する

2一点の正論のみで問題全体に疑問を持たせず染め抜いてしまう

悪意を持って「空気の醸成を狙う」者が大げさに振り回したテーマが問題の全体像にとって何割程度の重要性を持つか常に冷静に考えるべき。

21 「空気」とは体験的学習による連想イメージを使い、合理的な議論を行わせずに、問題の全体像を一つの正論から染め上げてしまう効果を持つ。議論の「影響比率」を明確にし、意図的な「空気の醸成」が導く誤認を打ち破る知恵を身につけるべき。

日本軍はアーヴィング・ジャニスの言う「グループ・シンク(集団浅慮)」の状態に陥っていた。

1都合の悪い情報を封殺して無視する

2希望的観測に心理的に依存していく

方向展開を妨げる4つの要素

1多くの犠牲を払ったプロジェクトほど撤退が難しい。サンクコスト(埋没費用sunk cost)コンコルドの例

2「未解決の心理的苦しさ」から安易に逃げている

3建設的な議論を封じる人事評価制度

米軍:実戦で優れた評価を出した者を昇進

日本軍:上司と組織の意向を汲んだ者を昇進させ、異論や疑問を差し挟む者を左遷や降格

4「こうであって欲しい」という幻想を共有する恐ろしさ

22 情報や正しい警告を受け入れなくとも、問題自体は消えることはない。グループ・シンクやサンク・コストの心理的罠にどれだけ早く気づき、方向転換できるかが組織の命運を決める

コンティンジェンシー・プランがないと

1損害を劇的に増やす

2新たな損害を自ら生み出す

リスクをあらかじめ公表・周知させることのメリット

1リスクとされている事象に注意を払う人が増える2リスクを理解していることで、不意打ちを避けられる

例:はやぶさ

例:コンチネンタル航空

リスクへの対応

1最大限迅速に「早く」対応する

2何より「真実」を正確に把握する

3リスクを隠すのではなく「周知徹底」することで予防につなげる

23 リスクは「目を背けるもの」でも「隠す」ものでもなく、周知させることで具体的に管理されるべきもの。ビジネスでは、リスクを「かわす」のではなく、徹底して管理しなければ、存続していくこと自体が難しくなる。