手塚治虫が一番好きだ、と言っていたので、若い頃に読んだ。
ただその時は面白さがよくわからなかった。
だが、ず~~~~っと心に引っかかっていた。
そして、ようやく自分なりに消化できてきた。
この物語は、貧しい学生ラスコーリニコフが、何だかんだと理由をつけて、高利貸の老婆を殺す。しかし、良心の呵責に苦しむ。
たとえどんなにいい思想を持っていても、たとえどんなに凄い才能を持ったエリートだとしても、たとえ相手が悪人であっても、その悪人を殺す権利は、法によって裁く以外、誰にもない。個人に殺人の権利はないのだ。作者の主張はそこなのではないか。
21世紀の現代でも、SNSで誹謗中傷する人やワイドショーで悪役っぽい人を攻撃するテレビ局など、ラスコーリニコフっぽい人が沢山いる。
『新約聖書』で、娼婦に石を投げる人達に、イエスが「罪のない人だけ、この女を裁く権利がある。」と言ったところ、罪のない人などいないことに気づいた人々の話が重なる。
ストーリーがなかなか進まず、テーマが重くて暗い小説だが、これは必読な小説だと思う。