日清戦争から大東亜戦争までの11個の歴史のイフを検証した本。
黒文字は本書の概要。青文字は私個人の感想だ。
第1章 日清戦争ー北京を攻略していたら
清国政府が瓦解し交渉相手を失う。列強の武力干渉必至。
そのため、北京を攻略しないで史実通りにして正解だった。
私もそう思う。
第2章 日清戦争後ー三国干渉を拒否していたら
イギリスの支援なしに三国と戦うのは難しい。
イギリスも日本を支援する可能性は低かった。
遼東半島を講和条約案に入れたのは日本側で、イギリスの案だと入っていなかった。もしイギリス案で講和条約を締結していたら三国干渉はなかったので最善の結果になっただろう。
遼東半島割譲が日本案だったとは知らなかった。イギリス案だったら三国干渉がなかったというのも同意。そうだとしても、ロシアと対立しイギリスと日英同盟を結ぶ可能性は変わらなかっただろう、というのも同意見だ。
第3章 日露戦争ーハルビンまで攻撃していたら
日本軍にハルビンまで攻勢する力はなく、仮に実施すると、奉天会戦までの成果を一挙に失った可能性が高い。
同意する。日露戦争については、戦争の終わらせ方は、当時の国力や戦況から見て理想的だったと思う。
第4章 日露戦争後ー日米共同の満鉄経営が実現していれば
日露戦争後、アメリカと日本が共同で満鉄経営をする、という桂・ハリマン協定があり、合意に達していたが、日本側から破棄した。
そのため、その後、満洲や中国をめぐる日米対立の激化、日英同盟破棄、日独伊三国同盟、アメリカとの対立激化、太平洋戦争へとつながった。
もし、桂・ハリマン協定が実現していたら、満洲や中国をめぐる日米対立の激化が発生せず、太平洋戦争に至らず、逆に日本が連合国側に立っていただろう。
アメリカには、日本移民排斥や有色人種への差別などがあったから、満鉄経営の日米共同だけで、その後の日米対立がなかったか、というとわからない。しかし、日本は米英側に立たないと成り立たない国なのだから、筆者の論は納得できる。
第5章 第一次世界大戦ー日本軍欧州派遣へのラブコール
1個師団輸送するのに30余万トンの船舶が必要なので、40個師団以上をヨーロッパ戦線に送るのは、陸軍全力を派兵することに等しく、輸送には200万トンの船舶が必要だから派兵は不可能というのが当時の日本の主張だった。
だが船舶を英仏が出すという話もあった。
対華21箇条要求を出したことで米英仏に疑念を生じさせた。
アメリカが連合国側で参戦し勝利すれば、アメリカの発言権が絶大なものとなる。
日本としては東アジア太平洋で権益を拡大するならアメリカ参戦以前に陸海軍主力の参戦表明が必要だった。または参戦しないのなら対華21箇条要求を出さずに大人しくしていていれば、日本が連合国内で孤立し敵意の重囲のなかに陥ることはなかった。
私も同じ考えだ。
第6章 第一次世界大戦ー欧州戦場に本格参戦していれば
日英仏米の4か国で戦後世界秩序を構築できたはずだ。ワシントン会議も日英同盟破棄の方向ではなく、日英仏米の4か国による世界秩序構築の方向になったはずだ。
その結果、第二次世界大戦の構図は、日米英仏vs独伊ソとなったはずだ。
あるいは、日米英仏+ソvs独伊だったはずだ。
このイフは、理想的だと思う。日英同盟破棄がなければ、孤立した日本が日独伊三国同盟になびかなかっただろう。だが、満洲事変や支那事変でアメリカがどのような方向になっただろうか?
第7章 満洲事変ー塘沽停戦協定を厳守していれば
満洲事変直後の米英ソ三国は、日本の軍事行動に積極的に対応しようとしなかった。
日本が満洲だけで大人しくしていれば、アメリカの対日感情もしだいに収まる雰囲気があった。
しかし、軍部が独走するという日本の構造的欠陥は、是正されていないから、この「たられば」の実現には悲観的にならざるを得ない。
万里の長城がなぜあそこにあるのか、どこから中国本土なのか、を考えると、日本が満洲だけで大人しくしていればよかった、という考えには同意する。
軍部独走を止められなかったことは、やがて盧溝橋事件を引き起こし、支那事変が引き起こされたのは必然だっただろう。
第8章 日中戦争ー「たられば」もない構図
「海外で勝手に軍を動かした行為を処罰せず、結果オーライに勲功を与えたことが、軍全体に命令を無視しても成果をあげればよいという下剋上の風潮(中略)を蔓延させた。(中略)軍の生命である軍紀を崩壊させてしまったのだ。」
「(近衛文麿は)戦争を解決するための政戦略を描く大経綸の才がなく、(中略)最高指導部に人がなく、軍の生命である軍紀が崩壊したもとでは、(中略)「たられば」が存在していても、(中略)それを実現する可能性はゼロに近かった。」
残念ながら、その通りだと思う。
第9章 太平洋戦争前ー三国同盟を破棄してたら
ドイツのソ連侵攻は三国同盟の基本を壊しているので、三国同盟から離脱すれば、アメリカが日米交渉に本格的に取り組む可能性が高くなる。
著者も書いているとおり、そううまくいくとは思えない。
第10章 太平洋戦争前ー初期の日米交渉で妥結していたら
日米交渉でアメリカが出した条件である、「アメリカが対独参戦しても日本はドイツを支援しないこと、日中和平は反共のための日中共同防衛、日中経済協力、満洲に関する友好的交渉が条件であり、当分は特別必需品を除き戦前水準で日米通商を回復する」というもので、このあたりで妥協して交渉していたら日米戦争を回避できた可能性はあった。
「ジリ貧」だから勝算ないが戦争する、というのが当時の軍部の考えだった。「まともな国家戦略も描けない外交・軍事のお粗末さ、空しさだけがこみ上げてくる」
「対米戦争にも勝算も成算もなかったのだから、対面と欲をすてて最小限の目的達成、すなわち満洲の確保に全力投球すべきだった。」
まさにそのとおりだと思う。当時の軍部の考えは、ギャンブル依存症の人が、これまでの損を取り返そうとしてさらにギャンブルにはまるのと同様だった、と思う。
残念ながらこの「たられば」が実現することには悲観的にならざるを得ない。軍部の強硬派が第二、第三の盧溝橋事件を起こす公算が高いからである。
残念ながら同意だ。
第11章 太平洋戦争ー真珠湾を攻撃していなかったら
良くても戦前の日米交渉で最大限譲歩した以下の条件でしか戦争を終結させられず、悪ければ無条件降伏という結果となる。
同意する。
満洲事変以後の「たられば」ではなかなか歴史を変えることは難しかったと思う。
イフとして意味がありそうなのは、日英同盟破棄、その原因となった第一次世界大戦での派兵拒否と対華21箇条要求を出さないイフだろう。
それでも、日本側に下剋上の風潮があったらどうなったかはわからない。
本書のイフは近代日本の重要な岐路でのイフについて書いていて、一読に値すると思う。