「大本営発表」といえば今では政府機関による虚報の代名詞となっているだろう。
本書は昭和16年12月8日から昭和20年8月26日までの大本営発表、大本営陸軍部発表、大本営海軍部発表を並べ、実際の戦果・損害と比較したり、米軍側発表と対比したものである。
表題の「真相史」というのはかなり大げさで、表題自体が「大本営発表」になっている。
とはいえ1000本近くの「大本営発表」を渉猟し、実際の戦果や損害と比較しているのは大変な労力だったと思う。
筆致は淡々としている。
現在の戦争報道でもそうだが、戦争で勝った側は少しでも戦果を大きくしたいし、負けた側は損害を隠したい、というバイアスが働く。さらに軍事機密事項があるから、発表が遅れたり、誤報や欺瞞工作もあるから、それらを整理するだけでも大変なことだ。
だが、表題の「真相史」というには、もっと陸海軍で発表にあたって論争したり、言葉を選ぶための経緯など、裏側を見せてほしかった。
サイパン島をめぐる戦いで「二回まで撃退せるも」と陸軍側が書いた所、海軍側が「撃退できるかどうかわからないのに、(中略)二回撃退などという文句は必要ない」と反対し、結局、明け方までかかって文章が作成できた、というような話をもっと書いていたら、「真相史」と言えたと思う。
戦果が大きく損害が少ないのに戦線が後退していく大本営発表を読んでいた当時の人々はどう思っていたのだろう。