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中央公論別冊 日本国の「失敗の本質」 2012年 01月号(2011/11/24)

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■中央公論別冊 日本国の「失敗の本質」 2012年 01月号

■出版社: 中央公論新社; 不定版 (2011/11/24)

■ASIN: B0064BHOSK

■発売日: 2011/11/24

 

 この雑誌は、今一番人気のある戦史研究家達が、太平洋戦争を題材にして、日本に今でも残る失敗の本質に迫っている。

 

 第1章では、猪瀬直樹が『昭和16年夏の敗戦』に、菊澤研宗が『組織は合理的に失敗する』に、別宮暖朗が『太平洋戦争はなぜ負けたか』に書いたことを、要約している。この雑誌の記事を読むとそれぞれの内容がわかるが、より詳しく知りたい場合、それぞれの本を読むといい。私の一押しは、菊澤の本だ。人や組織がいかに合理的に失敗するかが、よくわかる。

 

 第2章 日本軍迷走の実像では、戸髙一成が『栄光の帝国海軍、組織劣化はこうして起こった』、戸部良一『昭和陸軍・暴走のメカニズム』、小谷賢『情報敗戦』、村井友秀『中国の大戦略に鈍感な日本』というタイトルで、日本軍がいかにして、戦争に突入していったかを分析している。戸髙の記事でミッドウェー海戦で後方数百キロ離れたところに役に立たない戦艦群が出撃した理由が、戦いに参加したという履歴が後の叙勲に影響があるからだった、とは開いた口がふさがらなかった。戦争中に省益を追求している海軍官僚に驚いてしまった。小谷の記事では、日本の首相の権限の弱さの制度的欠陥が明らかにされている。

 

 第3章 今もなお残る失敗の根源 野口悠紀雄『日本の戦後はまだ始まっていない』、原田泰『復興予算23兆円は「バスに乗り遅れるな」の繰り返し』、谷口智彦『通貨と安全保障、過去の再演』

 この章は、現代日本の問題点を鋭く突いている。特に野口の記事は、日本の電力産業の仕組みが戦時経済体制下にできたこと。電気料金の仕組みが原因で福島原発事故につながったことが、明快に説明されている。原田の記事もかなり衝撃的だった。政府による東日本大震災被害の計算が大きすぎるというのだ。第二次世界大戦で緒戦で勝ち続けたドイツ・イタリアに続けと「バスに乗り遅れるな」というスローガンに乗り、戦争に突き進んだのと同じように、復興という名のもとに、巨額な予算を集め、役に立たない復興をしようとしている政府批判をしているのだ。

 

 第4章 主要作戦失敗の軌跡 ミッドウェー海戦、ガダルカナルの戦い、ニューギニアの戦い、タラワ・マキン・クェゼリン、インパール作戦、マリアナ沖海戦、サイパン陥落、レイテ決戦について、戦いの概要と結果を簡潔にまとめているが、ページ数の関係で帯に短したすきに長しで、中途半端な感じが否めない。この章は太平洋戦争史に詳しい人なら読み飛ばしてもいい。

 現代日本の組織について、太平洋戦争と関連づけて考えるには、概要がうまくまとまったいいムックだ。詳細を知りたければそれぞれの著書に進めばいい。980円なら十分元がとれるムックである。