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野口悠紀雄『消費増税では財政再建できない -「国債破綻」回避へのシナリオ』ダイヤモンド社 (2012/01/27)

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■出版社: ダイヤモンド社 (2012/01/27)

■ISBN-10: 4478017816

■ISBN-13: 978-4478017814

■発売日: 2012/1/27

 

■評価=★★★★★

 

 財政再建や年金問題が日本の大きな問題になっている。しかし、それらの議論はなぜかピントがずれていると思えることが多かった。収入-支出>0なら黒字で、収入-支出<0なら赤字という単純な事実から目をそらし、消費税を上げると景気がどうだ、と本質からずれた議論が多いように思えたからだ。

 本書の4ページには、消費税を5%上げたとき、現在の社会保障費や国債費やその他の歳出の伸びと税収や歳入や国債費の伸びが続く場合のシミュレーションが載っている。これを見ると、景気がどうのという議論が吹っ飛んでしまう。今すぐ消費税を5%上げても、2024年には国債残高はGDPの200%を超えてしまうし、公債依存度が50%を超えてしまうのだ。このシミュレーションは税収が増加することになっているが、現実には税収増は期待薄だろうから、これでも楽観的なシミュレーションなのだ。

 第2章では、消費税を増税しても、2028年には国債消化が行き詰まる、と予言している。数字でシミュレーションしているので、明快なのだ。

 第4章、第5章では、この現実を踏まえて、日本の財政政策をどうするといいのか、わかりやすく数字を元に説明している。少子高齢化で社会保障費が伸びることは必然なので、そこにメスを入れる必要がある。少し意外だったのは、日本の医療費が諸外国と比べて必ずしも大きくない、という事実だ。筆者は公の比率を減らし、民間の比率を増やすことを処方箋として上げており、論理が明快で納得できる。

 第6章では、最近の経済学の流行である人口構造と経済の関連性について、人口構造は重要だが全てではないことを反証を上げて説明している。日本の場合、40~59歳人口の減少が大きな影響を与えている。これは私の仮説だが、国家が対外的に膨張しようとしているときは、18~29歳人口比率が大きいのではないか、と思う。

 第7章では、マスコミ報道などから何となく国民のコンセンサスになっていることが実はそうではないことを説明している。

 第8章では、介護が日本の基幹産業になりうるかどうかを予測している。

 

 いずれも、数字をベースにして説明しているので、説明がわかりやすく説得力がある。世論や選挙対策などの政治的な理由で政府が、財政政策を、何となく変えているのが、日本の将来のためにとても恐ろしい。

 科学的で論理的な考え方が国民に浸透していないため、その場その場の流行や空気に流されてしまって政策を決めてしまうのが、これまでの日本だったが、今もそこが変わらない。そこが一番恐ろしい、と思った。

 本書の明快な論の進め方は、物事を論理的に考えるための、一つの好例として、参考にしていきたい。