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竹内久美子『同性愛の謎―なぜクラスに一人いるのか 』文藝春秋 (2012/01/20)

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■竹内久美子

■同性愛の謎―なぜクラスに一人いるのか (文春新書) [単行本]

■出版社: 文藝春秋 (2012/01)

■ISBN-10: 4166608444

■ISBN-13: 978-4166608447

■発売日: 2012/01/20

 

 「同性愛者は子孫を残すことができないから、いずれ絶滅するはず。それなのに、約5%の比率で存在しているのはなぜか?」という生物学上の疑問について、様々な仮説を立てて、検証してきた生物学者の研究の歴史をまとめた本だ。

 同性愛は歴史を調べると、どこでも、特に日本では、当たり前のことだった。キリスト教で禁止しており、キリスト教国だったヨーロッパが18世紀以後、世界を征服したので、同性愛をタブー視する考えが世界に広まった。開国時に日本はヨーロッパから軽蔑されないように同性愛を禁じたのだ。

 第一章では、A・F・ボガードやB・A・グラデューの研究を紹介する。その結果、わかったことは、男性同性愛者は男性異性愛者に比べて、男性ホルモンへの反応は変わらないが、女性ホルモンに対して敏感に反応するということだ。

 第二章では、ヘルパー仮説に基づいたD・ボブローとJ・M・ベイリーの研究を紹介する。ヘルパー仮説というのは、同性愛者が自分の遺伝子を増やすために、兄弟を助けるという仮説だ。働きバチや働きアリがそうである。ボブローやベイリーの研究の結果、ヒトの場合、ヘルパー仮説は否定的となった。なぜなら同性愛者は異性愛者に比べて家族と疎遠だからだ。キリスト教国で、同性愛が否定されてきたのだから、家族に同性愛者がいるとわかると、彼らと縁を切ろうとするのがキリスト教国の普通の家族の態度だろうから、この結果はわざわざ調査しなくても当たり前だろう、と私は思う。

 第二章では、ハマーの研究結果も紹介されている。ハマーは同性愛に関係する遺伝子の場所を、X染色体上に、特定したのだそうだ。この研究は議論を呼んでいて反論もあるようで、まだ決着はついていない。X染色体上にあるのなら、XXを持つ女性よりXYを持つ男性に同性愛者が多いのも納得できる。

 第三章ではホルモンやフェロモンと、それに反応する脳について説明される。オキシトシンが、痛みを軽減し、信頼感を形成するそうだ。また、異性愛の男は普通女性フェロモンに反応しし、男性フェロモンに反応しないのに対し、同性愛の男は男性フェロモンに反応し、女性フェロモンに反応しないそうだ。PETやMRIで生きた人間の脳を観察できるようになって最近わかってきたらしい。

 第四章では、オスカー・ワイルドやフレディー・マーキュリーなどの同性愛者の生涯を紹介しながら、同性愛者には兄が多いという調査や、プラクティス仮説などを解説している。

 そしていよいよカンペリオ=キアーニによる本命の仮説が紹介される。それは、「X染色体上に乗っている女の繁殖力を高める(=女性ホルモンのレヴェルが高い)遺伝子が、男性に伝わると同性愛者になる」というのだ。男性同性愛者の女性親族は子供の数が多いのだそうだ。

 女性同性愛者の場合は、「男の繁殖力を高める(=男性ホルモンのレヴェルが高い)遺伝子を持った女性」だという。

 まだしっかり証明された学説というわけではないが、なかなか興味深い内容である。本書の内容は、かなり難しい内容だが、わかりやすく説明している。また、文藝春秋の彼女の連載と違い、ギャグにせず、真面目に調査している。眉唾ものの研究もいくつかあるが、ヒトについての調査研究が主体なので、それは致し方ないだろう。話があちこち飛んで戻ってくるので、時々「あれ?」と思うことがあるが、生物や遺伝について、楽しく読むことができる。