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別宮暖朗 『日本海海戦の深層』

別宮暖朗

日本海海戦の深層 (ちくま文庫)

■出版社: 筑摩書房 (2009/12/9)

■ISBN-10: 448042668X

■ISBN-13: 978-4480426680

■発売日: 2009/12/9

日露戦争日本海海戦の本当の姿を、事実に基づき冷静に分析した本である。

日本海海戦歴史観司馬遼太郎の『坂の上の雲』が、現代日本人の平均的な姿だろう。本書は、様々な歴史的事実を列挙して、司馬史観を批判している。

 ロシアの戦艦が、約8度傾くだけで浸水し、転覆してしまうという構造的欠陥。石炭を積む当時の軍艦の航続力の小ささ。当時の艦隊が遠征するには補給基地が必須であること。膅発(とうはつ)という当時原因不明だった砲身で砲弾が爆発する現象。第一次世界大戦までは役に立たなかった徹甲弾。世界に先駆けて実戦で使った日本海軍の斉射法。当時の砲撃方法では、敵前大回頭のポイントを射撃し続けることが困難なこと。吃水線下に破孔を作る砲弾が当時は無く、上部構造物を破壊し無力化することが重要だったことなどなど。

 当時世界最強で要所要所に植民地を持っていたイギリスとの日本が同盟を結んだことは、日露戦争を勝つ上で、戦略的にとても大きい影響があったことがわかる。

 そして、ロジスティックス無しでは艦隊を有効に機能させることができないことも。ロシア艦隊は、イギリス植民地には入港できず、同盟国フランスの港に入るが、国際情勢の変化によって、フランスの態度が変わり、十分に石炭や水を補給できなくなった。また、艦底を掃除できないため、フジツボがついて速度が十分に上がらない状態だったのだ。

 こういった事実を見ていくと、日本海海戦は勝つべくして勝った戦いであったことがよくわかる。

 本書のように、日露戦争後、日本海軍が日本海海戦をきちんと分析していたら、第二次世界大戦で、あのような補給を無視し、精神論に基づき、勝利へのシナリオを持たないで戦争を始める馬鹿な戦いはしなかっただろう。本書では、第二次世界大戦の黛大佐が、日露戦争当時の技術を知らず、太平洋戦争の頃の技術を基準に、日本海海戦を分析していることを、強く批判している。

 歴史を正しく分析することのおもしろさと難しさがよくわかる本である。