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田口 理穂ほか 『「お手本の国」のウソ (新潮新書)』(2011/12/15)

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■出版社: 新潮社 (2011/12/15)

■ISBN-10: 4106104482

■ISBN-13: 978-4106104480

■発売日: 2011/12/15

 

 日本のマスコミで、お手本として紹介されることが多い7つの国の7つの事象について、現地に長年住んでいる人達のレポートを一冊にまとめた本。

 

・フランス:少子化対策がうまくいっている先進国

→伝統的に家族を大切にする。婚外子が多いのは、制度的なメリットが無いので結婚という形をとらないカップルが増えたから。日本では若年失業率が高いから出産しても子供を育てられないという議論があるが、フランスの場合、若年失業率25%でも出生率は2%前後だそうだ。数年前のフランスなら「少子化対策に失敗した国」だったから、長年いろいろな対策を立ててきてそれがようやく実を結んだ、というのが実情のようだ。

 

・フィンランド:教育がうまくいっている国

→「フィンランド・メソッド」は日本の大使館員が作った言葉だそうだ。ただし、確かに義務教育は時間数が少ないのに充実しているようだが、それは教師のステータスが高く、教師一人一人がすごい努力と工夫をしているからだ。現在の日本に持ってきてもおそらくうまくはいかないと思う。

 

・イギリス:2大政党制のお手本

→既に崩れているし、混迷している。で、日本はどうする?

 

・アメリカ:裁判員制度のお手本

→これは本書の中で一番驚いた。私はアメリカはほぼ100%陪審員裁判だと思っていたが、実はほとんど陪審員裁判ではないそうだ。映画『12人の怒れる男』という映画があったが、あれが実情に近いようだ。

 

・ニュージーランド:自然保護大国

→固有種を絶滅から救うため、断固たる姿勢で保護地域の哺乳類を駆除している。日本ではここまで徹底できないだろう。そして固有種が消えてしまうだろう。

 

・ドイツ:戦争責任と向かい合う国

→ドイツは戦争責任を、「死人に口なし」で、自殺したヒトラー一人に押しつけたように個人的には思う。今でもナチス関連はタブーだが、それで本当に歴史から学ぶことができるだろうか?

 

・ギリシャ:観光大国

→経済破綻しても、観光を主要産業とするために努力している国。

 

 フランス、フィンランド、ギリシャは、いずれも「こういう国にするんだ」という強い意思、哲学に基づいて国づくりをしているように感じられた。

 翻って日本は、明治からバブル崩壊までは、「先進国に追いつき追い越せ」で来たが、バブル以降、国家をどういう方向に持って行こうか、という意思なく時が過ぎているように思う。国家財政が破綻寸前で、少子高齢化もすごい勢いで進む日本には、今すぐ、国家をどうするか、方針を決め、実行していかないと手遅れになると思う。

 日本が方向を変えるとき、国内からの力では方向を変えることができないのは、歴史が証明している。そのため、「お手本になる国」の様子が日本に紹介され、「○○国がこうしているから、日本もこうしよう。」ということで方向が決まることが多い。その時、日本人は意図的に取捨選択をしてきた。例えば律令制導入時には、律令制とセットのはずの科挙を導入しなかった。豪族勢力が既得権を守るためだ。

 今、本書で紹介されている7カ国も、「お手本」とされているが、日本に紹介されていない面がいろいろあるようだ。本書を読んで、本当に日本をどうすべきか、真剣に考えるべきだと思う。