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中屋敷均『遺伝子とは何か?』講談社ブルーバックス(2022/04/20)

 

「遺伝子とは何か?」という問いは、改めて聞かれると、意外と答えに窮する。

 

何が遺伝子なのだろうか?メンデルの法則で言うと、マメの表面が丸いか、シワと習った。だが、遺伝子に「マメの表面を丸くしろ」と書いてあるのだろうか?

遺伝子に「人間だから指は5本にしろ」とか「二重まぶたにしろ」と書いてあるのだろうか?「身長は親に似て170cmくらいにしろ」と書いてあるのだろうか?もしそうなら、指とは何か?170cmとはどんな大きさか?という定義も必要だろう。そんなことも遺伝子に書いてあるのだろうか?

 

その遺伝子の探求の歴史をまとめたのが、本書である。

古代ギリシャ時代に始まり、メンデルの研究。タンパク質に遺伝子がある、という仮説。ワトソン、クリックによるDNAの構造の解明。DNAの4つの塩基の暗号解読。RNAの発見と役割の探求などである。

 

現在、学校で教わる理科では、最新学説に基づいて学習する。その中に時々、先人の研究について語られる。そうすると、昔の科学者の実験の意義が、よくわからないと思ったのは私だけだろうか?

本書の説明は、次のように展開している。そのため、仮説が設定された背景や、実験の意義がよくわかった。

 1)当時、わかっていたことを示す。

 2)その中でどんな仮説があり、議論されていたか、を説明する。

 3)仮説を検証するためにどんな実験を行ったか

 4)なぜその実験により、ある仮説が否定され、ある仮説が証明されたのか、理由を解説している。

 

この説明方式をとることによって、「科学的思考がどういうことか」がよく理解できると思った。教科書はこういう説明の仕方にするべきだと思う。

 

現在、遺伝子がDNAにあることはわかってきているが、遺伝子にどんなことが書いてあるかはわからない。「このアミノ酸を作れ」(本書では「タンパク質をコードする」という表現をしている。)ということだけはわかってきたが、それだけである。

 

本当だったら、ヒトの胎児期に「てのひらまでできたから、これから指を作るぞ。指の遺伝子はここにあるから、それをm-RNAにコピーして、指を作るよう指令を出そう。」という制御する部分(本書では「制御配列」と呼んでいる。)がどこかに書いてあると想像できるが、それが全くわかっていない。ヒトの場合、「タンパク質をコードする領域」は、わずか1.2%にすぎないらしい。非コードゲノム配列の大部分は、制御配列と非コードRNAだが、機能はほとんどわかっていない。

ヒトのDNAはA4用紙400万枚分に相当するらしい。これはA4用紙を横に並べると、アメリカ大陸横断往復分になるらしい。それだけの情報量から特定の部分を探し出して、「このタンパク質を製造しろ」と的確に指示するのは人間にできることではない。

それを生命はやっているのだから凄いことだと思う。

 

また、私は、「進化は、DNAの中にif文があるから進化できるのではないか」という仮説を持っている。例えば、DNAの中に「もし、周囲の環境が乾燥した場合、この遺伝子を発現させて適応しろ。」とか「もし、年平均気温が○○度を上回ったら、この遺伝子を発現させて、発汗効果をあげろ。」のような遺伝子があるのではないだろうか。

そして、「環境の変化によって、発現する遺伝子が異なるのではないか」というのが私の仮説である。そうでないと新種の生物が登場するような大きな進化を説明できない、と思うのだ。これは私の妄想にすぎない、と思っていた。

 

だが、1944年のオランダで、飢餓を経験した母体から生まれた子どもは、成人後、高頻度で肥満となり糖尿病の罹患率が高く、統合失調症発症率が通常の2倍だったそうだ。驚くべきことに、それが飢餓の経験がない彼らの子や孫にも遺伝したのだという。エピジェネティクスというそうだ。どういうふうにDNAに書かれているかは分からないが、私の仮説、妄想のような仕組みがあるようだ。

 

DNAやRNA、遺伝子については、まだよくわかっていない。おそらく私が死ぬまでには解明できないだろう。また、現在わかっていることが、将来、否定されて新しい学説が定説になることもあるだろう。

現在、遺伝学が経てきた道や到達したところを簡単に理解するためには、本書はとてもおすすめである。