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白土三平『カムイ伝9 鬼相の巻』(小学館)(1968/01/10)


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第一章 謎

 謎

  明暦の大火で焼け出された草加竜之進をカムイが手術する。意識を取り戻した笹一角が襲いかかるがカムイはかわす。手術を終えたカムイは「領主を殺しても日置藩はつぶれない。悪いが領主を死なすわけにはいかない。」と言って手当の仕方を教えて去って行った。

  日置藩下屋敷では領主や奥方や宝監物が無事を喜んでいた。領主のペットの亀も宝監物が大事に抱えていた。

  草加竜之進と笹一角の所に鏡隼人が現れた。幕府は江戸にいた大名を国元に返したのでかたきである領主がいないと話す。

  鏡隼人の前にサエサが現れた。伊賀で爆発の中でカムイがどうやって助かったかサエサがきいた。カムイはみじんがくれの術の説明をし、自分を誰かが助けたのだと話す。そしてサエサを気絶させた。そこへ赤目が小舟で通りサエサを助けた。

 異変

  日置藩では新田開発をしていたが巨大な岩が邪魔をした。火薬の使用を願う百姓達だが城代は禁じる。城代は亀に餌をやりながらほくそ笑む。

  正助の家では妊娠したナナに狂人の小六が食事をくれる。

  正助はボテフリの商人に火薬の材料を依頼する。

  橘軍太夫の家では蔵屋がボテフリの商人達を何とかしてくれ、と依頼し金を渡す。

  横目達がボテフリを殺した。ボテフリの一人庄兵衛が正助に火薬の材料の隠し場所を言ってこときれた。

  シブタレの友人であるツブレの助が亀を拾い、シブタレと一緒に食べてしまった。

  城内では城代が亀が一匹いなくなったことに気づいて慌てていた。

  助が亀を食べたとわかると助は首を斬られてしまった。城代は亀のことを「おカメ様」と呼んでいた。

  そこへ江戸が火事になったが藩主達が無事だという知らせが届いた。

  

 弱肉強食

  夢屋七兵衛は相模屋が大名貸で金に困っていることを知る。相模屋が入水自殺しようとしたところを救う。そうして相模屋に恩を売り相模屋の販売ルート三百か所を夢屋七兵衛が握った。

 風

  明暦の大火で生き残った水無月右近は風のように自由に生きることにした。ある道場の師範になった。手裏剣の達人と戦うことになるが、弓を自作して倒したり、仇討ちにやってきた女と子どもを川に突き落として去って行く。

 

 お返し

  花巻に草加竜之進と笹一角が新田開発の開発人夫として帰ってきた。

妊婦が赤ちゃんを出産したが

女児のため「お返し」つまり嬰児殺しをしていた。草加竜之進と笹一角は「もしあのとき放火していたら」「おろかじゃった」と反省していた。

  夙谷ではナナが正助の子を産もうとしていた。カムイが助けようとしたとき正助が火薬を自作していることを聞いたが素人が火薬を扱うことは危険だと気づいた。

  カムイは正助のために火薬で巨大な岩を破壊した。

  非人ナナは下人正助の子を産んだ。  

 

[感想]

 草加竜之進や笹一角が日置藩領内に帰ってきた。それにしても日置藩の秘密はなんだろう?「お亀様」が鍵になりそうだがどうなのだろうか?

 「お返し」という名の嬰児殺しは悲惨な歴史の一幕だ。

 そしてナナがついに正助の子を産んだ。この後の展開が楽しみだ。

 

 

第二章 雪どけ

 五代木騒動

  五代木ではクシロが先頭に立って夢屋に対して打ちこわしが発生した。橘軍太夫が現れたが、おキクが機転を利かせて「店を壊してくれと依頼したのだ」と言う。「店を取り壊すのでも許可が必要で許可なく取り壊すと罰せられることは承知か」と問う橘軍太夫によって、連れて行かれた。打ちこわしや一揆の首謀者が罰せられるため、おキクが自分が犠牲になることで、皆を救ったのだ。

  橘軍太夫や蔵屋は喜んでいるが、回米の船がやってきた。船が来た以上荷があろうがなかろうが1/3の運賃を払う約束なのだ。

  実は船を送ったのは夢屋七兵衛だった。運賃は蔵屋が肩代わりした。

  軍太夫は蔵屋になんとかするように言ったが蔵屋は断った。しかし城代に湊屋という商人を紹介し口添えした。湊屋は何とか米を算段して七兵衛の船に乗せた。

  日置藩領内から米が大幅に減少したので米価が上がることが予想できる。軍太夫と蔵屋はほくそ笑むのだった。

 

 ふたり卜伝

  日の市(赤目)がクシロを小さな島で探していると、クシロの横に老人がいた。瀕死のクシロを救ったようだ。クシロが師と慕っていた。その老人は赤目のことを知っており、赤目も抜忍になったと言った。赤目はクシロにその小さな島から出るな、と伝えた。おキク救出のためだと念押しした。

  赤目が去ってから老人は果たし合いをすることを思い出した。果たし合いの相手は左卜伝。この老人も左卜伝だった。

  海上の船同士での果たし合いは老人の方の左卜伝が勝利し日置流弓術の達人のはずの左卜伝は「参った」した。

 

 手風(てぶり)

  手風(てぶり)と名乗る忍者が、老人の左卜伝に負けた方の左卜伝の背後をとった。どうやら左卜伝も日置領に潜入した公儀隠密の忍者の一人のようだ。

 

 袋

  花巻の新田に雨が降る。堰を作ったため川が浅くなり堤防が決壊しそうになった。正助と権たちは新田を守るために堰を破壊した。

  新田に水を流すためには堰が必要だ。堰ををつくると川が浅くなり堤防が決壊し新田を破壊する。それに対する解決策を正助は見つけられずにいた。

  正助とナナの子ども一太郎は草場で石をぶつけられて瀕死の状態だった。弥助が自分がいるから心配するな、と正助に言う。

  川で皮を流してしまった非人の声で皮で袋を作ると砂利がたまらないことに気づいた正助は袋堰を設計した。

  正助は奉行所と蔵屋に堰開発の金策に行ったが断られ、夢屋から資金を得る。 

  人夫達もいなくなってしまったが、正助と権が始めた堰作りに、百姓達や非人達が協力し始める。

 

 雪どけ

  湊屋が江戸に10,000両を送金した。

  城代や橘軍太夫に湊屋が借金返済を迫ろうとするが蔵屋にあしらわれる。

  日置藩藩主が鷹狩りに出る。鷹匠の百舌兵衛の一番弟子夙の三郎(カムイ)もついていく。そこにたまたま草加竜之進と笹一角がいた。二人は領主の顔を見ると仇討ちしたくなった。だが、たまたま川で溺れている幼児カムロを見て彼を救った。そのために領主を襲うことができなくなった。「なぜ子どもを・・・」と質問するカムイに二人は「わからん」と答えた。

  春が来た。熊が冬眠から目覚め、雪どけ水が川に流れてきた。皆で作った堰にも水が流れ、そこから用水路に水が入った。喜ぶ百姓や非人達。正助の子ども一太郎も怪我が治っていた。

 

 カムロ塚

  田植えが始まったある雨の日、池の堤に割れ目ができていることを知ったカムロは自分の身体で割れ目を塞ぎ池が決壊することを守って死んだ。

  城では城代と橘軍太夫が、最近、百姓と非人が仲良くしているのが問題だと話している。城代は、人手不足の今のうちだけで、機会を見てしめる、と話す。

  そして綿の花が開いた。

 

 一本角

  橘軍太夫と蔵屋が困っていた。日置藩の綿や生糸を夢屋七兵衛が握ってしまうからだ。橘軍太夫が横目に何やら耳打ちする。

  横目は一本角と呼ばれる牛に石を投げて牛を暴れさせ川に落とした。牛の死骸を目にした非人達が牛を解体する。牛を泥棒したと誤解した百姓達が非人を襲い大げんかになり死者まで出た。

  夢屋七兵衛が金を出して人夫を入れることになった。カムロ塚で手を合わせる正助。スダレ(苔丸)も正助も武士が仕組んだこととはわかっていたが、皆が聞かないこともわかっていた。

  堤にカニが入って穴を開けたことで堤が危険になった。最初は助けに入らない非人達だがスダレが指示して助けに入った。そして田畑が救われた。協力を誓う百姓と非人達だった。

  日置城では湊屋が借上米の返済を城代に迫るが、既に他の借金返済に回ってしまっているとのことだった。そのため城代は湊屋自身でうまくやれ、と言う。

  湊屋に借米取りがやってきた。湊屋は自殺した。

  夢屋七兵衛は、赤目が漕ぐ船の上で「蔵屋め。そのうちしとめてやるからな」と決意を新たにする。

 

 手風(てぶり)

  カムイの背後をとり、カムイをしびれ薬でしびれさせたのは搦みの手風(からみのてぶり)だった。「たしかめたいことがある。」「うぬ(カムイ)の命もらった。」という手風。

  

[感想]

 カムイと搦みの手風の戦いの続きが読みたい!ここで巻が終わるのは凄いタイミングだ。

 新田開発が夢屋七兵衛の資金で進んでいる。それを妨害して利益を横取りしようとするのが城代や橘軍太夫や蔵屋だ。大名貸しで自殺した湊屋は気の毒だ。

 白土三平は「マルクス主義や唯物史観がある」と言われる。だが、それよりも既得権を持つ者と新しい技術で既得権者に立ち向かう新興勢力との間の闘いと捉えた方が正確だと思う。またそう考えることで現代読む意義があると思う。

 『カムイ伝』では、日置藩藩主や城代や橘軍太夫が既得権者で、夢屋七兵衛や正助やスダレ達がそれに挑戦する者だ。赤目やカムイはどちらでもなく個人の超人的な力を伸ばそうとする人だ。

 この巻のタイトルである「鬼相」とは「鬼のように恐ろしい顔付き、鬼のように怖い表情」と言うことのようだ。新田開発に絡むそれぞれの人達の顔を指すのだろうか?

 次巻も楽しみだ。