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白土三平『カムイ伝8 火炎の巻』(小学館)(1967/11/10)


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もくじはこちら


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第一章 八方変現

 八方変現

  抜忍赤目殺害のため、夢屋七兵衛と手代の日の市を追う鏡隼人(カムイ)はどちらが赤目か確信を持てないでいた。犬をけしかけ七兵衛を水に落とした鏡隼人は日の市が赤目と判断し殺した。そこに松林蝙也斎が現れ、鏡隼人に毒を塗った手裏剣を投げつけた。鏡隼人は橘軍太夫の屋敷に戻るが、そこには用心棒達の死体が並んでいた。馬に乗って洞窟に隠れた鏡隼人。

  船の上で七兵衛と赤目が日の市の遺体を見ている。七兵衛は今はぬけるかぬけぬかのせとぎわだ、と赤目に言う。金の力で赤目を抜けさせようとする七兵衛。二人は日の市の遺体を海に捨てる。殺されたのは、小六に変装していた時の日の市の代打だったのだ。

  城代の屋敷で、夢屋七兵衛が昨夜襲われ、松林蝙也斎が助けたことを話す。左卜伝がやってきて、目付橘軍太夫の用心棒が全滅し鏡隼人が行方不明だと知らせてきた。城代は自分の用心棒達が目付の用心棒を襲っていないことを確認する。松林蝙也斎は、「公儀隠密か?」と城代にきく。城代は「隠密か・・・わが藩だけはむりじゃ。」と笑う。

  夢屋七兵衛が城代の用心棒たちを五代木に連れて行く。水無月右近だけは城代の護衛に残るが、スランプに陥り小さな子どもの木の棒で剣をたたき落とされる。

  夢屋七兵衛は金の力で拳銃などの武器を揃えた。赤目は死巻や竜針などの武器を開発した。

  五代木に来た城代の用心棒のところにサヤカ(サエサ)が酌をする。

  そこに別な浪人達がやってきて城代の用心棒を全員倒す。彼らを招待した夢屋七兵衛は、本当のお頭は船の上だと話す。船には赤目がいた。浪人達は実は忍びだった。赤目は彼らにも抜忍になれ、と誘うが、疑い深い忍び達は赤目を信用しない。赤目は五人全員殺した。死体の始末を助けたのは松林蝠也斎だった。

  城代の用心棒達は当て身で気絶していただけだった。松林蝠也斎が6人全員を倒したことに驚く用心棒達。松林蝠也斎は5人しか殺していないので6人いたことに驚く。

  夢屋七兵衛の工場ではかつての漁師達が水産物加工の仕事をしていた。賃金が少ないと不平を言う漁師達。おキクがその話を七兵衛にし、七兵衛が岩吉を呼び、彼を皆をまとめる管理者にする。

  七兵衛の工場の託児所ではおキクが働いていた。サヤカ(サエサ)は子どもが嫌いと言う。おキクを慕うクシロという漁師がサンゴをおキクに届ける。彼は七兵衛が嫌いだった。おキクは自分がキリシタンであることを告白する。

  夜、サヤカはたいまつで合図を送る。それを見た忍びの頭領と忍び達。望遠鏡で見ると赤目と用心棒達が船で酒を呑みながら釣りをしていた。忍び達は赤目を殺すために船を出した。しかしそれは赤目の罠だった。そこはサメのいけすで海中に落ちた忍び達は次々とサメの餌食になった。

  頭領は部下が誰も帰ってこないため焦る。そこを赤目がモリを投げる。頭領はまだ生きていてクシロが頭領を背負ってて連れて行った。

  おキクはクシロと七兵衛が仲良くするように願っていた。

  七兵衛とクシロは話し合うが埒があかない。

  クシロの前を狂人の小六が歩いてくる。クシロがモリを投げようと構えると背後で赤目が「そやつはただの狂人だ」と言う。クシロはカムイだったのだ。二人の戦いが始まった。赤目がクシロの左手に死巻をかけ爆破させた。クシロの左手が切断された!!さらに竜針でトドメを刺す。死体を確認に行った赤目を背後から手裏剣が襲う。

  「ぬかったわ。やったのは本物のクシロか」とつぶやく赤目。

  激しい戦いが続く。赤目に見えた忍者は松林蝠也斎の姿だった。カムイはジャーマンスープレックスで松林蝠也斎を投げた。しかしそれは赤目ではなく本物の松林蝠也斎だった。

  城代と七兵衛と松林蝠也斎が話をしている。七兵衛が拳銃を取り出し天井を撃った!赤目は七兵衛に変装していたのだ。赤目はカムイを倒し、「とうとう抜けた!」と叫ぶ。撃たれたカムイを連れて赤目は船に乗る。

  クシロの帰りを待つおキク。

  カムイを思うサヤカ(サエサ)。

  七兵衛を憎みながら海中から岩に上がるクシロ。

 

[感想]

 忍者同士の戦いのシーンは圧巻だ。白土三平の劇画でなければできない表現だ。驚いたのはコマ割りだ。見開きページや二段や三段使ったページがほとんどない。それでいて動きと迫力あるシーンを描くのだから白土三平の画力は凄い。

 

第二章 掟返し

 晒し

  非人のナナとの愛を誓った正助は、武士達に捕らえられ鞭打たれる。橘軍太夫が馬で引きずり回す。前例をみない非人と百姓の結婚許可願いのため、笞刑100と10日間の押し込め、ナナは5日間の晒し刑となった。

  キギスが見張りをしていたが、ナナがカムイの姉だと初めて知らされる。

  そこにナナとアケミを輪姦した男達がやってきて二人を輪姦したことを白状した。命令したのは横目だった。そこに権たち百姓とスダレ達非人が来て、男達をボコボコにし、股間にカニの好物を塗りつけた上、しばりつけた。スダレが持ち前のパワーでナナを縛り付けている柱を持ち上げナナを楽にしてあげた。見張りのキギスは何も見なかったことにした。

 荒野

  横目の家が放火された。

  翌日からナナの見張りは別な者になったが、百姓達に逆に見張られていて何もできなかった。

  正助が閉じ込められている牢にシブタレが雨の日にカサをさして立ち小便した罪で入ってきた。シブタレはナナの近況と横目の家が放火されたことを知らせに来たのだ。そして、彼は自分が密告者になった経緯を話す。両親が密告者によって磔にされて死んだのが理由だった。

  城代がやってきて「身分でもなくならぬかぎりうぬら(正助とナナ)が一緒になれぬということがわかったか?」と言う。正助は「わかりました。身分さえなくなれば一緒になれるということがです。」と答えて城代を怒らせる。

  正助とシブタレは釈放され、新田開発の許可も得られた。ナナと会った正助は抱き合う。そこに夢屋七兵衛がいた。彼はナナをどこかの養女にし百姓同士の結婚にしようとしたが、正助に断られる。しかし新田開発の資金提供については正助と合意した。  

  新田開発が始まった。城代は新田開発は許可したが百姓と非人の結婚は許可しないつもりだった。

  城代の用心棒の一人である左卜伝が新田開発の様子を偵察していた。そこに一人の浪人が昼寝をしており、「左卜伝」と名乗った。

 

 掟返し

  夢屋七兵衛の船上で、カムイを連れて行った赤目は、夢屋七兵衛が調達した異国の薬でカムイを助けた。一ヶ月が経過していた。カムイはまだ意識が戻らないが着実に回復していた。夢屋七兵衛と赤目はそのまま五代木を去った。五代木の夢屋には代わりの商人がやってきておキクに挨拶した。サヤカ(サエサ)に、七兵衛からの手紙が届いた。そこにはカムイが鏡隼人と同一人物だったこと、伊賀に向かっていることが書かれていた。サヤカ(サエサ)も去って行った。

  伊賀では小頭と忍者達がカムイを囲んでいた。そして戦いが始まりカムイが死んだ。そこにサエサが来て、カムイのかたきと毒を塗った短刀で小頭を刺し殺した。小頭も任務を忘れて抜忍を追った罪で殺される運命にあったのだ。そこに頭巾をかぶった大頭が現れ、サエサに江戸に行くよう指令する。

  スランプに陥った水無月右近のもとに松林蝠也斎が現れる。右近は弟子にしてくれ、と頼むが、松林蝠也斎は右近の弟子入りを断り、江戸に行き、弟の剣風の所に行くことを勧める。

  江戸では幼児斬りが流行っていた。浪人が幼児を斬り「十二人目か」とつぶやいたところに松林剣風が現れた。浪人は闇太郎と名乗り二人は戦うが、互角だった。

  江戸で草加竜之進と笹一角は傘張りの内職をしながら、藩主の嫡子国千代を斬ろうと狙っていた。そこに鏡隼人が現れ、二人に無駄だと言った。

  はしごの上から日置藩下屋敷を望遠鏡で見つめる三人。嫡子国千代が遊んでいるところに闇太郎が乱入し国千代の首をはねた。竜之進追跡の際、負傷して役払いになった戸田十郎の息子である戸田新九郎だった。彼は国千代を殺したことで日置藩がお家断絶となることを狙って復讐をしたのだった。だが、嫡子国千代の首を見ながら藩主は笑っていた。

  日置藩藩主はすぐに隣の望月藩から養子をもらいお取り潰しはなかった。これが日置藩の謎である。江戸に来た水無月右近は鏡隼人の笛の音を聞き「あいつも江戸に来ていたのか・・・」とつぶやく。

  五代木ではクシロが先頭に立ち夢屋を打ちこわしていた。

 

[感想]

 江戸時代の厳しい身分制度と、新田開発の様子が具体的に描かれていた。夢屋七兵衛と赤目に助けられたカムイが伊賀で死んだのは意外だったが、絵を見るととてもカムイには見えない。サエサは気づかなかったのだろうか?

 江戸に現れた鏡隼人は誰なのだろうか?カムイなのだろうか?

 嫡子を斬られてもお取り潰しにならない日置藩の謎とは一体何だろう?

 

第三章 剣風往来

 流木

  浅間山の噴火による全国的な飢饉になった。

  江戸の火事を利用して夢屋七兵衛は材木を売って大もうけをしていた。

 夢々(むむ)道人

  飢饉で苦しむ姉弟の前に無々道人と言う仙人のような老人が現れ、食べ物を食べ生き別れになった両親と会う夢を見せた。二人が目を覚ますとお地蔵様のそばで、ふところには小判が入っていた。

  姉弟に無々道人は「尋人ヶ岬(とくじんがみさき)に行くように」と言葉を残した。人々が行ってみると四隻の船がいて人々に積み荷を渡した。日の市が城に行って材木伐採の許可を得ようとしていた。百姓からも材木伐採の申請が上がってきており、一揆が起こりそうな気配だ。武士達は材木伐採の許可を出し夢屋七兵衛はまた儲かった。

 お断わり

  金貸しの弓屋の取り立てが厳しく一家心中が起きた。頭巾をかぶった男が死ぬまで追い詰めてはいけない、と弓家を諭す。

  弓家は日置藩のお留守居役である宝監物に会わせろと自分に借金している武士に頼む。

  監物に、貸した金の利子だけでも払うよう要求する弓家。監物は弓家の所に行き、三千両都合してもらえないかと頼む。断る弓家に、監物は今後取引しない、と宣言する。弓家と万屋は同じように日置藩宝監物に断られた。頭巾の男に泣きつく二人だが、頭巾の男は、二人を見捨てる。頭巾の男は夢屋七兵衛だった。

  三井の越後屋が夢屋七兵衛と会い何やら話し合いをする。

  三井の越後屋は商人仲間を集め、大名貸のお断りと菱垣廻船対策を話し合った。大名貸のお断り対策としてお断りをした大名には金を貸さない不貸同盟を結ぶことにした。菱垣廻船対策として夢屋七兵衛の樽廻船を利用することとした。夢屋七兵衛は商人仲間の中では評判が悪かったが、共通の敵と戦うために、夢屋を利用することにしたのだ。

  あちこちの町人に借金を頼みに行く日置藩の面々だがどこでも断られた。宝監物は放火することを提案する。その会議を天井裏からカムイが見ていた。屋根には無々道人が潜んでいた。

  夢屋七兵衛と赤目が話し合う。七兵衛の夢は金の力で大名や幕府を超えることだった。赤目はその幕府さえ恐れる日置藩の謎について話す。

 

 大炊守(おおいのかみ)遺書

  江戸城では大老酒井雅楽守を筆頭に老中の面々が会議していた。日置藩の嫡子殺害人である戸田新九郎の処分だった。死罪は免れない。しかし、新九郎は日置藩不正の証人でもある。大老の酒井雅楽守も日置藩の秘密は知らなかった。

  そもそも十一年前の正保元年(1644)に死んだ土井大炊守(おおいのかみ)利勝の遺書に「日置藩は外様だが取り扱いには気をつけろ。あやまると徳川一門の大事にかかわる」とあったのだ。

  天井裏では無々道人がその会議を聞いていた。カムイもだ。カムイに無々道人は拳銃を向ける。

  日本橋で姉弟を出迎える無々道人。カムイに追われていることに気づいた彼は姉弟に金を渡し小船の上に逃れた。そこでカムイと会った赤目。無々道人は赤目の変装だった。カムイに「なぜ抜けなかったか?」ときく赤目。「お前(カムイ)が抜けるか抜けないか知りたかった」と話す赤目。カムイが追っているものが日置藩の秘密であり、それを知るとカムイ自身の命も危ない、と言った赤目は小舟を爆破し消えた。

 

 剣風往来

  松林剣風に水無月右近は会った。彼らが歩くと姿転心という男が殺されていた。浪人の挑戦を受け殺されたのだ。その浪人は次に松林剣風を狙っていた。

  剣風は陽気な性格でいろいろな人と会話していた。友人の中には水無月右近が慶安4年(1651年)の由井正雪の乱に参加したときにいた男もいた。彼が生き残ったのが奇跡だと水無月右近は話す

  千手小塚原で、戸田新九郎が処刑された。それを見ていたのは草加竜之進と笹一角。松林剣風と水無月右近も見ていた。

  転心をやった浪人が剣風に挑んだ。剣風は転んで土を足で蹴り上げて転心に目つぶししてその場を逃れた。

  水無月右近に剣風は右手が震えて動かなくなることがあるところを見せた。

  右近は剣風に「武士とは何か?剣法とは何か?」と問う。剣風は何も答えず二人は別々の道に向かった。

  針を使わず釣りをする少年を見た水無月右近は、太刀を捨てた。

  放火して藩主である弾正を斬る、と話していた草加竜之進と笹一角の家に鏡隼人が現れ、止めるが、二人は実行する、と言う。そこに頭巾で顔を隠したサエサらしき女が現れ鏡隼人がいないかと問う。鏡隼人の香の香りをかいだ女だったが、既に隼人は屋根の上に逃げていた。

 

 砂塵

  ある寺で浪人達が集まっていた。その中には剣風もいた。由井正雪の乱戸次の乱に続いて江戸に火を放ち江戸城内に侵入し老中を殺す作戦を話していた。

  水無月右近が一人歩いていると浪人達が襲ってきた。襲った浪人達のリーダーは由井正雪の乱で生き残ったあの男だった。太刀を捨てた水無月右近は桶を転がしたり荷車を使って浪人達を撃退した。

  明暦三年(1657)正月十八日、明暦の大火(振り袖火事)が発生した。混乱に紛れて日置藩藩主弾正を襲う草加竜之進と笹一角。だがカムイが現れ変移抜刀霞ぎりで二人を倒す。

  夢屋七兵衛と日の市は船の上で火事を見ていた。日の市(赤目)は、無々道人に変装したとき日本橋で待つように指示した姉弟を思い出したが既に遅かった。

 

[感想]

 ちなみに浅間山は、Wikipediaの記事によると、江戸時代だけでも、以下のように噴火している。1604年、1605年、1609年、1644-1645年、1647-1649年、1651-1652年、1653または1655-1659年、1669年、1704年、1706年、1708-1711年、1717-1718年、1720-1723年、1728-1729年、1732-1733年、1754年、1776-1777年、1783年(天明の大噴火・鬼押出し)1803年、1815年。

 大炊頭遺書の所で、『カムイ伝』のこの時期が、1655年とわかった。

 そして明暦の大火があったので1657年だったこともわかった。新九郎が死んでから二年経ったようだ。

 

 昔、東京メトロ東西線の木場駅周辺の川に材木が浮かぶ木場があった。ちょうどその光景が描かれていた。

 農業中心の経済から商業中心の経済へ変わっていく様がわかりやすく描かれている。

 

 それにしても日置藩の謎は一体何なのだろう?