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第一章 誕生
怪声
謎の巨人が「カムイ」という言葉を発する。
ダンズリ
正助の父で下人の俊足のダンズリが登場する。
犬追物
日置城では領主が弓矢で犬追物をしている。
真矢で実際に犬を殺して行う犬追物をすることから領主の残酷性がうかがわれる。
もっと犬を連れてこい、という領主の命令によって夙谷の太郎という賢い犬ととらわれの身となっていた片目の狼が城に連れて行かれる。太郎は身動き一つせず領主の矢で殺される。片目はスキを衝いて脱走した。
山狩り
年貢を納め代官からの証明書を改作所に一番に届けると褒美がもらえる。ダンズリは俊足なので重宝されていたのだ。
次席家老の草加勘兵衛とその息子草加竜之進、剣術指南役の笹一角が登場する。
三年前の一揆の首謀者である吉兵衛が村に帰っているという情報がもたらされる。
百姓による山狩りが行われるが見つからない。領主は非人のリーダー、横目を呼び、非人たちに山狩りを行わせる。非人なら百姓に恨みがあるから見つけるだろうし、見つけた結果、百姓と非人の仲が悪くなれば領主にとっては都合がいい。
そして吉兵衛はつかまってしまった。
地擦り
笹一角の道場に新名流水無月右近と名乗る男が道場破りに来て笹一角を倒した。
その右近を横目がつけ狙い対戦し、横目は鎖鎌で右近の左脚を切断する。
緑の目
日置城から脱走した片目は傷を癒やし、厳しい冬を迎えようとしていた。
誕生
前年の収穫が減ってきた春。吉兵衛の処刑が行われた。百姓に対する見せしめだ。
吉兵衛の処刑をした非人の弥兵衛の所に男の子が生まれた。「生まれても非人の子じゃ。わしらは何のためにこの世にうまれてくるんじゃ。」とつぶやく弥助。
また、洞窟の中で一匹のメス狼が子どもを産んでいた。その中の一頭は白い狼だった。
[感想]
『カムイ伝』の三人の主人公である草加竜之進、正助、カムイが登場する。
これからどう育っていき、彼らがどう交わっていくのか楽しみだ。
第二章 カガリ
根ビラキ
春が近づいてきて、熊が冬眠から覚め、それを追うマタギたちによる狩りが行われる。
カガリ
カガリとは熊が木につけるテリトリーの目印のことだ。
タイトルはカガリだが、ここではあの白狼のいるメス狼の群れの様子が描かれる。
白狼に対する差別が始まっていた。
フッカケ
白狼への差別が続き、彼は一人でエサを狩る必要が出てきた。オオサンショウウオを狩った。白狼はその毛並みゆえに鷲に狙われた。かろうじて母狼が助けたが、彼女は怪我を負った。そのため雪崩の危険がある場所でカモシカと戦い、雪崩によって死んでしまった。
犬
母が死んだことを知らない白狼は、キツネと戦い、川に流され、まだ赤ん坊のカムイと出会う。夙谷の犬たちと戦い、怪我をし、弥助に捕らえられる。
草場
百姓の小六の所の馬が事故で死んでしまった。そのため、小六は妻と娘を奉公に出す。草場とは、死んだ牛馬を置く所だ。死んだ牛馬の処理は非人の仕事だ。そこに来た非人に石を投げる百姓。
カムイ
夙谷に巨人が現れた。騒ぎの中で白狼は脱出する。巨人はカムイを抱いて「カムイ」とつぶやく。脱出した白狼は片目と出会う。対決するのか群れを作るのか・・・
[感想]
この章のほとんどは自然界の様子を描いている。
その描写は、『ダーウィンが来た!』のようで、とても厳しく美しい。
第三章 剣
雪割り
慶安年間(1648-51)、花巻村の正助がキノコ採りの最中、竹間沢村の子どもたちに襲われる。そこを助けたのが夙谷のカムイだった。「本百姓になりたい」という正助に対して、カムイは「つよくなりたい」と夢を語る。
見分
農村の様子を武士である役人たちが調査するのが見分だ。役人を接待するのは百姓たちだ。あら探しに来る役人がアラを見つけるとその都度、袖の下を渡す百姓たち。農具を粗末にしていた罪で小六は役人に捕らわれてしまう。
血
小六は帰ってきたが、不満がたまっていた。その不満を非人にぶつける。カムイは百姓の子たちを殴り返す。そして自らの左手を刺して、「同じ血が流れているだ!!」と叫ぶ。その様子を謎の雲水が、見つめている。カムイの頭上の木の実を落とすが、カムイはそれをかわす。謎の雲水が感心している。
剣
草加竜之進はますます腕に磨きをかけていた。
日置藩目付橘軍太夫の息子一馬と御前試合で戦うのだ。一馬は軍太夫から突きを鍛えられる。笹一角の弟笹兵庫は奥伝の秘太刀を授けようとするが、家老は反対する。
竜之進は自ら一馬の突きに対する技を会得する。それを見ていた伊集院は「剣はしょせん人を殺す道具だ」と喝破する。
御前試合で、草加竜之進は橘一馬の突きを剣の柄で受けて、そのまま柄を一馬の急所にぶつけて、勝利する。勝負に勝った竜之進だがなぜか心が晴れない。
一本杉
強くなろうとするカムイは百姓の子どもたちと相撲をとる。その中で一番大きい仁助に何度も負けるが挑戦し続ける。
流星
御前試合で負けた橘一馬はふてくされて釣り三昧だ。大物を釣ったとき百姓が捨てた土の音に驚いて魚を取り逃がした。そしてその百姓を殺そうとしたとき仁助が身代わりになって殺された。
一方、カムイの母が病気になった。医者のもとに走るカムイだったが、医者は非人に冷たかった。そのためカムイの母は死んでしまった。
カムイは強くなることを誓い、猪と戦う。謎の雲水がその様子を見ている。カムイは猪と相打ちになり倒れてしまった。
そこに正助が通りかかった・・・
[感想]
正助とカムイに接点ができた。
この後どう展開するか楽しみだ。
昔、読んだ時、一番心に残ったのが、「武術はしょせん殺しの技術」という伊集院の言葉だ。草加竜之進もそれには反論できず考え込んでしまったが、私も答がなかった。少林寺拳法の開祖宗道臣が「力愛不二」あるいは「力のない愛は無力であり。愛の無い力は暴力である」と語ったと言うが、伊集院の言葉に対する答はこれだと思う。
犯人を逮捕するためには警察による「武力」が必要だが、同じ事でも使い方を誤れば「殺人」になるだろう。漁師の網や猟師の銃だって、生き物を殺す道具だが、それによって人は食べて生きていけるのだ。
伊集院はこれに対して何と答えるだろうか?
改めて読んでみると、山奥の川の水源から流れ出た水が幾本も合流して少しづつ大きくなり、海まで注ぐかのような、雄大な構想の劇画だ。一コマ一コマは絵画のように緻密な構図で、全体は映画のようになっていて、凄い劇画だと改めて思う。
当時の社会の影響でマルクス主義的歴史観に基づいているのだろうが、それを差し引いても、歴史に残る傑作大長編劇画だと思う。