haruichibanの読書&視聴のおと

読書メモや映画やテレビ番組視聴メモです

白土三平『カムイ伝6 青嵐の巻』(小学館)(1967/10/10)



f:id:Haruichiban0707:20240214212135j:image


もくじはこちら


f:id:Haruichiban0707:20240214212201j:image

 

第一章 カタタガエ

 鳥ツキ

  鳥ツキとは、魚の群れの上空に鳥が群れていることだ。それを見て漁師達は魚を追う。カツオの一本釣りをする漁師達だが急な時化に遭い船が沈没する。

 仁太夫

  日の市(赤目)と男が乗った船も難破し死体が浜に流れ着いた。赤目は生きていた。男も生きており入れ墨を消そうとしていた。男は七兵衛といった。赤目と七兵衛は島抜けをしたのだった。彼らが潜んでいるところにおキクという少女がやってきた。彼女の父も御蔵島送りになっていたのだ。小吉というおキクの父は栄養失調で死んでいた。

  そこに江戸の勧進頭(こじき頭)の仁太夫という男が現れた。彼は第5巻で谷地湯に来て横目と話していた男だった。おキクが彼に頼む。仁太夫は引き受ける。非人より低い身分としてこじきがあり、これを支配していたのが仁太夫だった。

 

  

 夢

  仁太夫のやっかいになった市(赤目)と七は、こじき達が瓦版や七福神参りや富くじの当たりくじの報道やクズ集めなどで生計を立てていることを知る。

  おキクが市と七兵衛に夢は何かと質問する。七兵衛の夢はカネだった。市には夢は何も無かった。

  市は泥棒を襲い千両箱を七兵衛に渡した。

  市は乱暴者の武士に喧嘩を売ってやっつける。それを見ていた七兵衛は「どんなに力があっても権力の前にはどうにもならない・・・個人の腕力で奪う量はしれたもの・・・わしの夢はもっとでっかいんじゃ。」と言って市が盗ってきたカネを捨てる。

「つぎはわしの番じゃのう。」と言う七兵衛。

 

 ヤタラづけ

  七兵衛はたらいをたくさん集め、お盆の供え物も沢山集めていた。そしてヤタラづけと名付けて売り出した。このヤタラづけが福神漬けの元祖だそうだ。

  仁太夫に頼まれて、七兵衛と日の市とおキクは日置藩に向かうことになった。   

 カタタガエ

  七兵衛と日の市とおキクは日置藩夙谷に着いた。弥助は一本松の下で仁太夫に会い、三人増えて三人減ることを聞く。横目が自分を通さなかったので横やりを入れたが、仁太夫は弾左衛門の特使だと主張する。この前に石つぶてをキギス達に当てた。キギスは仁太夫がツブテではないかと推測する。

  七兵衛と日の市とおキクが夙谷に入り、代わりにタツ(草加竜之進)とカク(笹一角)とスズメの三人が夙谷を出ていく。

  七兵衛は、日置の没落した商人増屋の息子と名乗り、蔵屋と会う。日の市(赤目)が墓を爆破し過去帳を燃やし、自分達の代わりになる三人を見つけてきた。

  日の市(赤目)は公儀隠密の抜忍が商人の手代という今の立場で、七兵衛が何をするのか楽しみになってきた。

  草加竜之進と笹一角とスズメの所に仁太夫が現れた。仁太夫はやはりツブテだった。しかしスズメはツブテが愛したスズメの妹だった。橘軍太夫の指示でその後を追うのがキギスたちだ。雲水は何か手を打って草加竜之進と笹一角を救おうとする。

  七兵衛と赤目とおキクは五代木に行って質屋を開くことにする。その道中で、赤目は公儀隠密の忍者達、そしてカムイとすれ違う。カムイは赤目に気づいていたが赤目を攻撃しなかった。それはカムイが忍びの掟を破ったことでもある・・・。

 

 五代木

  小さなさびれた漁師町である五代木で質屋を夢やという開いた七兵衛。だが、儲けはない。七兵衛はつぶれそうな網元の根島や鳴門屋に金を貸し付ける。抵当は彼らの商売道具の船だ。大漁でも貧漁でも船は自分のものになる、と夢屋は大笑いするのだった。   

 

[感想]

 夢屋という男は、何を考えているのかわからなくて魅力的な人物だ。農業中心の経済から商業中心の経済に変化していく過渡期に登場し、商人の発想で生きている男だ。江戸時代を描く上では重要なポジションに立つ男だ。この後彼が何をするのか楽しみだ。

 

第二章 夢の男

 迎入

  草加竜之進と笹一角とスズメと仁太夫一行を、武士達と橘軍太夫が雇った水無月右近達浪人が追う。武士達を謎の雲水率いる公儀隠密の忍者達が浪人達に化けて襲い一人残して壊滅する。浪人達はカムイが襲うが服を斬るだけで去った。雲水が、浪人達が武士達を壊滅させたと話す。水無月右近は全てを察した。ここで、水無月右近が由井正雪の乱(1651)より面白い状況だ、と話すので、この時点で1651年以後なのだろう。

  城代と和尚が話している。和尚は「道は二つ。戦って何かを得るか、目付とともに地獄に落ちるか」と城代をたきつける。城代のもとに浪人達がやってきた。その様子を目付の忍者が見ていたが去って行った。そのとき浪人が投げた剣が目付の忍者の左手を切り落とした。

  目付のもとに生き残った武士がやってきたがカムイが吹き矢で殺したので、浪人達(化けた公儀隠密の忍者達)に武士達がやられたことは目付には伝わらなかった。そこへ江戸からの使者が来て諸物価高騰のため方策を講じてくれと依頼した。

  目付のもとに横目が来た。横目の左手は肘から下がなかった。城代のところで左手を失ったのは横目だったのだ。右近ら浪人達が城代のもとに行ったことを横目は話す。

  橘軍太夫のもとを去った横目の所に雲水が現れ非人の頭が弾左衛門であることを警告する。そして横目の娘サエサが忍びになろうとやってきたことを話す。横目は人質をとられたようなものだった。

  橘軍太夫は蔵屋のもとを訪れ、5000両を用立てするように依頼する。そこには鏡隼人という香を焚いた美少年剣士が用心棒としていた。彼は囲いの中の犬たちを斬り捨てる腕を持っていた。それはかつてカムイが訓練していた方法だ。橘軍太夫は水無月右近と戦わせるために鏡隼人を雇う。

  

 乱雲

  鏡隼人と水無月右近が勝負をしようとしたとき、玉手の改作所が打ちこわしにあっているという知らせが届く。動揺する鏡隼人。

  場面が変わり日置城では城代と橘軍太夫が話している。一揆は蔵屋に向かっている。城代は橘軍太夫に、兵を動かすときには自分を通せ、というが、橘軍太夫は「すでに兵は動いている」とにやりと笑う。

  花巻村に玉手村から使者が来て一揆に参加するように説得する。養蚕をしていない花巻村の百姓達は参加したがらないが、正助が花巻村でも養蚕ができることを見せて、彼は参加すると手を挙げる。シブタレが庄屋に密告し役人にも密告しようとしたところを権たちに見つかり警告される。

  そんな中、正助とナナが育ててきた綿の実が開いた。スダレ(苔丸)が「正助は死なせない」と言って正助の後を追う。

 

 夢の男

  正助は一揆の首謀者である玉手の平蔵と会う。この一揆に勝つための二つの方法を話す。正助を表に立たせないためにスダレが正助を気絶させる。そして出荷前の繭を集め武士たちとの交渉に臨む。

  五代木では船が帰ってきた。大漁だが米の値段が上がったため価値がなくなったのだ。一揆の原因は蔵屋が繭の値段を買い叩いたからだ。夢屋は漁師たちの船を買い運送業を始める。

 

[感想]

 玉手村の一揆が成功するための方法とは何だろう?また、夢屋の夢が少しずつ見えてきた。うまくいくか楽しみだ。

 新たな登場人物である鏡隼人とは何者だろう?何となくカムイの変装に見えるのだがどうだろう?

 

第三章 つぼみ

 十文字

  水無月右近と鏡隼人の戦いが13ページにわたって繰り広げられる。鏡隼人は水無月右近の背後の忍びを殺した。そこに一揆に向かう百姓たちが走ってゆく。鏡隼人は消えて水無月右近はふみ殺されないように逃げた。

 

 つぼみ

  スダレ(苔丸)によって気を失った正助の回想シーンになる。皆が田植えをしている時期に正助は畑に何かを植えて育てていた。皆は心配そうに正助を見守る。正助は肥料を集めるために夙谷の非人部落にもトイレを作る。また夙谷の非人達から城下のし尿を集め船で運ぶことを提案される。

  百姓代の武助の娘アケミは一人で田植えをしていた。権も助けるがとても間に合わない。正助が夙谷の非人達を連れてきて田植えを手伝う。お礼の麦をもらって喜ぶ非人達。

  正助が田に稲を植えなかったのを見てダンズリが正助を叱る。正助は最初に稲を植えた人が凄いこと、自分は新しいことをする、とダンズリに反論する。スダレ(苔丸)がダンズリを諭す。

  正助の畑に足を踏み入れた百姓を正助は棒でたたきのめす。彼らの足跡でその謎の植物が待望の芽を出していた。

  庄屋は正助が育てている植物が何か調べるために一本盗み出して育て始めた。それを見た竹間沢の庄屋は、花巻の庄屋をほめる。そして正助には『農業全書目録』という本を渡す。

  綿作は機内では元禄・享保の頃(1688-1735)最盛期だった。この頃は承応から明暦(1652-1657)なので、正助の綿作は初めてかもしれない。

  正助の苦労が実りようやくつぼみができたて花が咲いた。彼が育てていたのは綿だった。正助とナナが抱き合いキスする。それを木の上で見つめるカムイ。

  スダレとナナの養蚕は秘密裡に行われ、ボテフリ(棒手振り)を通して細々と売りさばかれていた。それでも非人部落にとっては大きな収入源だったはずだ。

  正助は蔵屋に綿の花を見せに行くが相手にされない。そこに偶然、夢屋七兵衛がおり、彼は正助が持っていた花が綿の花であることを知っていた。そして五代木の夢屋に来るように伝える。

  そこで正助の意識が戻る。

  

 カンパチ

  城代家老下屋敷に百姓代表の平蔵が駆け込み、蔵屋が繭の値段を相場より低く買いたたいていることを訴え出る。

  一方、玉手村の一揆の前に橘軍太夫と蔵屋が現れる。話を聞くから武器を捨てろ、と言う橘軍太夫。百姓達が武器を捨てると、「全員逮捕しろ」という橘軍太夫。スダレ(苔丸)は繭に火をかけると脅す。もし繭を燃やすことになったら自分達が破滅すると動揺する百姓達に、「相場より安く繭を買おうとした蔵屋も金がないのだ。繭が売れなければ蔵屋は困るから、動揺するな。」と説得する。

  スダレ(苔丸)は、現金前渡しと最低原価の保証するか、自由販売を認めるか、条件を出し、書面に書き残すことを要求した。蔵屋は承知した。

  蔵屋はとうとう折れた。

  なおカンパチとは、結局最後、とどのつまりという意味で魚のカンパチも一番最後にどうしようもなくてつけた名前かもしれない、とある。

  橘軍太夫は城代のもとに行き全兵力を動かすことの許可を求めた。城代は「たかが一商人のために全兵士を動かせるか!?」と叱りつける。橘軍太夫は江戸表の借金はどうするか、と食い下がる。商人は一人ではない、と城代は答え、夢屋の日の市が千両箱6個の運上金を渡す。

  城代は最低保証を認めること、蔵屋に任せた糸会所での取引を認めること、一揆首謀者を極刑にすることを橘軍太夫に申しつける。

  正助とスダレ(苔丸)が帰ろうとするところを横目とキギスら非人達が待ち受けていた。正助を逃がしたスダレは非人達と戦う。それを木の上から黙って見守るのは鏡隼人だった。

 

[感想]

 玉手村の百姓一揆が勝利をおさめた。しかし首謀者は極刑にされる・・・。何と恐ろしい時代だったのだろう。子どもの頃それを知ってとても驚いた。七兵衛がかなり儲かっているのに驚いたが、彼が日置藩を変えていきそうなのは興味深い。

 

 なお、魚のカンパチの名前の由来は、こちらのリンク先によると、「カンパチは標準和名での東京での呼び名で、正面から見た際に目の上の斜め帯が漢字の「八」の字に見えることに由来します。」「因みに関東では、ショッコ ⇒ シオゴ ⇒ アカハナ ⇒ カンパチ」とのことだ。出世した最後だからカンパチなのかもしれない。

 

 『カムイ伝』を再読すると、意外とひらがなが多く読みやすいことに気づいた。登場人物が多いがそれぞれ特徴があるので見分けやすい。この辺りも『カムイ伝』の良さだと思う。