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塩見鮮一郎 『弾左衛門とその時代』 河出書房新社(2008/01/20)

塩見鮮一郎 『弾左衛門とその時代』河出書房新社

 

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 白戸三平の『カムイ伝』で少しは弾左衛門を知っていたが、本書を読んで、本当に生きていた一人の人間として、弾左衛門を知ることができた。

 弾左衛門は、穢多を管轄する最高の役職で、本書では、最後の弾左衛門こと弾直樹の生涯を通して、江戸時代の身分制度や人の差別意識について、事実に基づき冷静に描いている。

 穢多・非人と一言で言うが、職業が違ったというのは本書で初めて知った。また、弾左衛門が、江戸幕府崩壊直前に穢多・非人という身分制度を無くすことに成功した事も初めて知った。

 そして身分制度が、実は差別していた側だけでなく、差別されていた側を守る役目を果たしていたことを改めて知った。明治時代になり、身分制が無くなり、富国強兵のさなか、軍靴の需要が伸びる。それまで革製品を扱えたのは、穢多だけだったが、身分制が無くなり、誰でもその市場に参入できるようになった。弾直樹は昔の穢多身分の人達で工場を作り、努力するが、新規参入した別会社の勢いに押されていく。もちろん差別はあってはならない。だが、アメリカの黒人奴隷解放でもそうだったが、経済的な後ろ盾無く、身分制を無くしても、無慈悲な資本の前に、人は必ずしも幸せにはなれない。

 本書を読むと、江戸時代の被差別民達の生き方がよくわかる。そして、人の差別意識や、それを無くすためには、ただ無くすだけで無く、経済的な面も含めて、よく考えた制度設計をしないといけないことがよくわかる。そんなことを考えさせられる良書だ。