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小野 善康『成熟社会の経済学――長期不況をどう克服するか』 (岩波新書) (2012/01/21)

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■小野 善康

■成熟社会の経済学――長期不況をどう克服するか (岩波新書) [新書]

■出版社: 岩波書店 (2012/1/21)

■ISBN-10: 4004313481

■ISBN-13: 978-4004313489

■発売日: 2012/1/21

 

 本書のメッセージは一言でいうと、「日本の不況の原因はお金を使わないこと。貯金するな!お金を使え!お金を使えば景気がよくなる!」だ。

 一見、経済学の本だが、経済学らしくなく、日本人の質素倹約意識を変えようとアジテートしている本だ。論はわかりやすいのだが、何か重要なことをわざと抜いているような感じがして、「そんなにうまくいかないのでは?」と疑いを読者に持たせてしまう。

 

 本書の始めのほうで、「デフレ=お金への需要が極端に増え、モノへの需要が落ちている状態。」と説明しているが、忘れていたことだが、この表現は言われてみるとその通りだ。

 「貯蓄を増やすと雇用が減り結果貯蓄が減る。」と著者は主張するのだが、これはグローバル経済では成り立たないと思う。日本が金を使えば外国からの輸入が増え貿易赤字になり外国の雇用が増えるだけではないだろうか?

 本書では、社会を発展途上社会と成熟社会に分類している。

 発展途上社会=生産量増加。プロセスイノベーション

 成熟社会=プロダクトイノベーション

 

 

 

発展途上段階だと、生産性向上=>価格低下=>輸出増加=>所得&貿易黒字増加=>円高=>輸入増加

 

現在の日本は、成熟社会なので、

国内の消費意欲減退=>国内商品輸入商品両方の需要減退=>貿易黒字拡大=>円高

となっている。

 

これを、以下のようにすれば解決する、と主張している。

国内の消費意欲向上=>雇用増加&輸入需要増加=>円安=>雇用増加

 

全産業でこうなるのではなく、日本国内での比較優位な産業が生き残り、国内での相対的に生産性の低い産業は衰退する。外国との競争ではない。例 自動車産業とタオル産業

 

ということだが、何か忘れ物があるか、意識的に論から抜いている気がしてならない。これは、少し前までのアメリカではないか?そしてアメリカがどうなったのかには何も触れていない。

 

日本は、既に成熟社会になっているのに、発展途上社会の考え方や経済対策を打っているから不況を脱することができない、というのが本書の主張だ。プロダクトイノベーションを起こせば不況を脱する、と言っているが、そう簡単に起こせないのがプロダクトイノベーションだ。言うは易し、行うは難しだ。

 

 公共投資や増税についての本書の主張は次の通りだ。

1政府がいくら財政資金を配っても背景では必ず同額の取り立てがあるからお金の総量は決して増えない。この性質は財政規模によらない。したがって減税しようが増税しようが国民の使えるお金の総量は変わらずそれ自体で景気に影響を与えることはない。

2ただし消費性向の低い家計から高い家計への再分配は国民全体の消費性向を高める

3財政支出によってこれまでなかったモノや設備やサービスを提供できればその便益分がまるまる国民経済への貢献となる

 

増税=>介護、保育、環境保護、社会資本サービス充実=>生活の質の向上+経済の拡大+税収増=>財政健全化

 

旧来のケインズ政策

不況=>減税+国債発行=>将来の増税懸念の広がり=>消費も雇用も生まれない=>政府の財政縮小が叫ばれる=>公共事業削減=>雇用減少=>景気後退=>税収減少+財政赤字の悪化=>金融緩和=>人々のお金保有願望が高まっているので貯蓄に回る=>需要不足継続

 

ということだが、本当だろうか?グローバル社会になっている現在だと、そうはならないような気がするのは私だけだろうか?

 

政府が支援すべき分野は、「経営的には独り立ちできないがあった方が国民生活の質が上がる分野=生産力拡大ではなく需要の発掘をすべき」といい、福祉や介護や環境について、政府が支援すべきだと言っている。

 

「国債とは増税という政治的には難しいことを先延ばしするだけのために、すでに発行されている国債を信用不安に陥れる危険性のある政策」というのは同感。

 

本書では、最近流行の経済問題については何か一言書いている。

 

例えば、農業問題については、

農業は、国土保全と高齢者雇用の側面がある。従量補助金にする。

 関税=保護貿易になる

 補助金=働く意欲がなくなる。ふりをするだけの人が出る

 従量補助金=意欲なくさない

 

日本人は江戸時代以来、質素倹約型の生活が骨の髄までしみついている。それが、金の循環を悪くしているのはわかるのだが、「金を使え」と言われても残念ながら本書の論だけだと残念ながら納得感があまりない。新書ゆえに読みやすくするために数値で論拠を述べていないからだろう。参考文献は多数載っているので、より詳しく知りたい人はそれを読めばもっと納得できるだろう。