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武田知弘『ヒトラーの経済政策』祥伝社黄金文庫(2018/12/20)

 

 


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人や物事は、何か問題点があがることにより、全否定されることがある。

 

二酸化炭素を排出し地球温暖化の元凶になる、ということで石炭火力発電は目の敵にされる。

同様に、温暖化ガスを出すから、ガソリン車やハイブリッド車をなくし、全てEVにする、という宣言が出る。

事故が起こると危険だから原子力発電所は即やめる。

性的な趣味や嗜好が悪いから、その人の功績すべてを否定する。

などなど・・・。

 

アドルフ・ヒトラー第二次世界大戦を引き起こし、ユダヤ人を虐殺したという理由で、全否定されている人物の一人だろう。

 

ヒトラーアウトバーンを作った、というのはよく聞くが、世界恐慌から一番最初に立ち直ったのがドイツだったのは知らなかった。

 

その手法は、次の「第一次4ヵ年計画」だった。

 ・公共事業によって失業問題を解消

 ・価格統制をしてインフレ抑制

 ・疲弊した農民、中小の手工業者を救済

 ・ユダヤ人や戦争利得者の利益を国民に分配

 

その原資をどうしたか?

当時は金本位制だった。金本位制の欠点は、金保有量によって貨幣量が決まることだ。

経済成長していても金保有量が少なければ貨幣を増やせないのだ。

当時のドイツはベルサイユ条約による巨額な賠償金を払わないと行けない状況だった。金保有量は極端に少ない。

そんな中、シャハトが、インフレにならないと計算して、16億マルクの国債を発行し原資にしたのだ。

ドイツの公共投資と日本のそれの違いは、次の6点。

 1)労働者の取り分が多い。日本の場合、地主や大手ゼネコンの取り分が多い。

 2)アウトバーンはドイツが最も必要な時期に作られた。現在の日本の場合、既に道路網が整備されているので必要不可欠ではない。

 3)ドイツの場合、集中して莫大な予算を投入した。日本の場合、だらだらと投入している。

 4)ドイツは、扶養家族を持つ中高年の雇用を優先した。

 5)ドイツは思い切った少子化対策ニート対策も実施

 6)大企業に増税し労働者には大減税

 

これらの政策は、ヒトラーというより、金融家のヒャルマール・シャハトによるものだが、彼を登用した、という点はヒトラーの慧眼だろう。

シャハトは、ドイツのハイパーインフレを収束させ、ドイツの借金を半減させたが、次第にナチスににらまれるようになり失脚する。

 

シャハトがやったことは、金本位制から管理通貨制度に変えたことだ。

 

本書で興味深かったことは、第二次世界大戦アメリカが参戦した理由に関する記述だ。1940年7月にドイツが欧州新経済秩序を発表したことがそれだというのだ。

欧州新経済秩序は、ドイツが占領した地域であるマルク通貨圏内では、資本、労働力、商品の往来を自由にする、という現代のユーロのような計画だった。アメリカ主導の金本位制を離れ、管理通貨制度に移行する、というものだ。

こうなると、金本位制を主導するアメリカにとっては、自国の金の価値が下落することになるので、許せなかったというのだ。

これ以後、アメリカは陰に陽に、連合軍を支援し始め、1941年3月には武器貸与法を成立させ、事実上、中立ではなくなり、参戦に傾いていった。

 

ナチスヒトラーがやった残虐行為は許されるものではない。しかし、それゆえにナチスの全てを否定するのもいかがかと思う。日本の今後の経済政策や少子高齢化対策も含めて、なかなか考えさせられる本だった。