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井沢元彦『「誤解」の日本史 (PHP文庫)』2012/03/03)

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■出版社: PHP研究所 (2012/03/03)

■言語 日本語

■ISBN-10: 4569677878

■ISBN-13: 978-4569677873

■発売日: 2012/3/3

■評価:★★★★☆

 

 同じ著者の『逆説の日本史』と重なるところが多いが、同書は、既に20巻近くになるので読むのが大変だ、と思う方は、こちらがダイジェスト版だと思って読むといい。

 著者は一貫して現代歴史学の「史料絶対主義」を批判している。著者は、歴史学のプロは、一般社会で言う"常識"に欠けている、"宗教"に欠けている、と言って批判している。"常識"と言ってしまうと、曖昧だし時代や地域によって"常識"は変わってしまうので、誤解を招きやすい用語だと思う。筆者が言いたいのは、「史料を書いている集団や組織や個人の社会的政治的背景や、動機や、史料が書かれた当時の一般的常識、書かなくても当たり前だと思われている社会通念に基づいて、史料を読むべきだ。当時の人が当たり前と思っていることは書物に残さないが、残っていないからと言って切り捨てると歴史の解釈を誤ってしまう」と言いたいのだ。

 邪馬台国を当時の中国読みすると「ヤマト」に近い読み方になる第一章。当時全盛だった藤原氏が悪役で没落した源氏が主役になっている『源氏物語』が書かれた謎を解説した第四章。ヨーロッパもアメリカもイスラーム諸国も成し遂げることのできていない政教分離を実行した織田信長について書いた第九章と第十章。アレクサンドロス大王、チンギス・ハンやナポレオンを例に挙げて、豊臣秀吉の朝鮮出兵の意味をわかりやすく説明した第十一章。

 

 徳川綱吉の「生類憐れみの令」の歴史的意義を説明している第十二章。この法律は、戦国時代以来の殺伐とした気風を生命尊重の気風に変えた点で実はすごい法律だったのだ。

 名君だった(?)徳川吉宗の第十三章。中学生の頃、江戸時代の三大改革として習った享保の改革だが、天保の改革ははっきり「失敗」と書かれていたが、享保の改革については「成功」とも「失敗」とも書かれていなかったのが不思議だった。今大人になって考えると、享保の改革は、デフレ政策+増税で、幕府の財政を一時的に好転させたが、根本的な改革にはなっていなかったと思う。

 誤解されている田沼意次の第十四章。中学の頃、田沼の政治に名前が無いのが不思議でならなかった。今大人になって考えると、重農政策の江戸幕府を重商政策に変えようとしたのが田沼意次であり、結果的には、抵抗勢力に屈して実現できなかった、ということがよくわかる。本当の意味で田沼意次がやろうとしたことは、改革だったと言えるだろう。だが、日本は伝統的に既得権ある勢力が強くて、改革を実施するのは容易ではない。歴史を学び、信長や田沼を見ると、そういうことがよくわかる。