本書では働き方のバージョンを次のように定義している。
働き方1.0 年功序列・終身雇用の日本的雇用慣行
働き方3.0 プロジェクト単位でスペシャリストが集合離散するシリコンバレー型
働き方4.0 フリーエージェント(ギグエコノミー)
働き方5.0 機会がすべての仕事を行うユートピア/ディストピア
日本社会が、いろいろなところで、いまだに年功序列・終身雇用の日本的雇用慣行を引きずっている現実。それが日本人の多くが感じる働きにくさの原因だ。
「正社員」という「身分」がそれだ。労働組合が守るのは「正社員」の既得権であり、「非正規社員」の権利は労働組合の対象外というのは「なるほどなぁ~」と思った。
「私達が市場で富を獲得する方法は、(1)金融資本を金融資本に投資する (2)人的資本を労働市場に投資するの2つしかない。」という言葉は、言い得て妙だと思った。
そして、(2)人的資本を労働市場に投資するは、次の3点でしか増やせない。
(1)人的資本を大きくする(例:資格を取ったり能力を高める)
(2)人的資本を長く運用する(例:長く働く)
(3)世帯内の人的資本を増やす(例:夫婦共働き)
これも当たり前過ぎる結論だが、改めて提示されると「なるほどなぁ~」と納得する。
「本郷バレー」の話も面白かった。バレーボールのバレーではなく、シリコンバレーのバレーだ。東京大学のある文京区本郷周辺にベンチャー企業が集まっていることを指す。シリコンバレーで起業すると世界中から頭のいい人が集まってくるので競争が激しく勝ち残るのが大変だ。しかし本郷で起業すれば、ライバルが少なく、「ぬるい」日本で手っ取り早く億万長者になれるのだ。1社めのベンチャーキャピタル(VC)に「こんなベンチャー始めました」と案内を送ると「話を聞かせてください」と連絡が来る。2社目には「最初のVCと話をしている」というと担当者の目の色が亜÷。「2社のVCから提案もらっています」というと出資額があっという間に上がるらしい。横並び意識の強い日本らしい話だ。
本書は2019年3月に『働き方2.0 vs 4.0ー不条理な会社人生から自由になれるー』を改題し、加筆・修正したものだ。文庫版特別寄稿として、「誰もが知っていながら報じられない「労働者」以前に「人間」としてなんの権利も認められない非正規公務員の現実」がある。私は非正規公務員の現実を知らなかったが、あまりのひどさに驚いた。
例えば児童相談所は、高い専門性をもつ非正規職員と、なんの専門性もなく経験年数の浅い正規職員と、専門性がなく数年経つと別な部署に異動になる正規職員で構成されるそうだ。図書館は、図書館司書の資格をもつ非常勤職員、図書館司書の資格をもつ正規公務員、図書館に異動してくる一般行政職の正規公務員、そして「異動しない一般職の正規職員」で構成される。この最後の人たちは異動に耐えられない職員、最低限の職務をこなせない職員で、そういう人の待避所が図書館なのだそうだ。
正規公務員の既得権を維持するために、非正規職員は様々な不条理に縛られている。驚いたのが「空白期間」だ。「新たな任期と再度の認容後の新たな任期との間に一定の勤務しない期間を設けること」だ。理由は、継続して雇用すると労働者としてのさまざまな権利を認めなくてはいけないからだそうだ。「退職手当や社会保険料等の財政的な負担を避ける」ためだそうだ。「空白期間」があると、労働災害の扱いにもならなくなるそうだ。まったくひどい話だ。
こんな日本社会だが、著者は「明るい」という。「不安感が大きいというのは日本社会に深く根づいた「病理」で、その結果、会社に「安心」を求めて終身雇用にこだわり、自分達でタコツボをつくって苦しんでいるわけですが、これは逆にいうと、まわりがみんなネガティブなのだから、ポジティブな選択をするとものすごく有利になるということでもあります。」と言い切り、そんな例を数件あげている。実際、国家公務員試験の受検者が減っているらしいから、若者はもう気づいているのだろう。
日本社会でこれから社会人になる人、会社を引退する人にお勧めの本である。