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読書メモや映画やテレビ番組視聴メモです

さいとう・たかを『ゴルゴ13 188 巨人共のシナリオ』(リイド社)(2018/04/19)

 










 

『キャノピーからの使者』(2011/01作品)(脚本協力 長谷川春世)

■依頼

依頼者:記載なし(テキサス州ダラスの新薬製造会社専務)

ターゲット:生物学者であり自然保護活動家のジョージ・イートン博士が乗るゴンドラのケーブル

依頼金額:不明

狙撃場所:コスタリカ グアジャナ高地

 

殺害人数・相手:7人

 現在 6人

  ジョージ・イートン博士、ジョージ・イートン博士の娘ウルガ、FBIジャック・ウッド捜査官、ドン・サパタの息子カルロスと手下2人

 4年前 1人

  ドン・サパタ

 

ホテルの中で熱を出して苦しむゴルゴ13。それでもゴルゴ13を後にする。

 

その4ヶ月前、ダラスの高層ビルで仕事の依頼を受けるゴルゴ13。相手は製薬会社の役員と思われる男だ。ジョージ・イートン博士に、カエルの保護を名目に、未知の毒性生物を探索してもらっていた。新しい殺虫剤開発のためだった。しかしイートン博士は、「生物保護には協力するが、生物を殺すためには協力できない」と言い、その製薬会社の意向に逆らい、他の企業にサンプルを送った。そのため、ゴルゴ13に博士が乗るゴンドラのロープの狙撃を依頼したのだった。

 

ゴルゴ13は見事に博士が乗るゴンドラのロープを狙撃し、博士は地上に落ちて亡くなった。娘のウルガは、恋人のFPI捜査官ジャック・ウッドに依頼して、ロープが自然に切断された事故なのか、何らかの殺人なのか、調べてもらった。ウッドが鑑識に依頼して、ロープの切断面を調べてもらい、そこにニッケルの金属粉が付着していることがわかった。そして彼はゴルゴ13が狙撃犯であることを突き止め、ウルガに伝えた。

 

ウルガは、父の仇を討つために、スイス チューリッヒゴルゴ13が泊まっているホテルの部屋のドアノブに蛙の毒を付着させた。

そのせいで、ゴルゴ13は熱に苦しめられたのだ。

 

ダラスでは、ゴルゴ13に依頼した専務が会議中に血を吐き死亡した。

 

ゴルゴ13は自家用ジェットでコスタリカに飛び、ベゼルに依頼して、地元のシャーマンのドンガに診てもらい、民間療法で治そうとする。

 

ベゼルは、コスタリカのマフィア、カルロスに、ゴルゴ13が熱病に苦しんでいることを伝え、ホテルに案内する。カルロスの父ドン・サパタは、4年前に、ライバルのフェルドバ一家に雇われたゴルゴ13に狙撃されたのだった。カルロスは、今がチャンスと手下と共にゴルゴ13の部屋に突入するが、返り討ちにあった。

 

裏切り者のベゼルは、ドンガと助手によって、吹き矢で殺される。

 

ウルガとジャック・ウッドは、山荘に逃げようとするところを、回復したゴルゴ13によって狙撃される。

 

タイトルのキャノピーとは、一般には、傘や蓋状になった天盤や航空機の風防のことだが、p.18のPart2のサブタイトル『樹上の”事故"』の樹上に「キャノピー」とルビがふってあり、「樹上」という意味のようだ。

 

ゴルゴ13を殺そうとした人は何人もいたが、今回のウルガが一番ゴルゴ13を苦しめたと思う。


『巨人共のシナリオ』(2011/09作品)(脚本協力 静夢)

■依頼

依頼者:不明

ターゲット:中国情報通商部 陳

依頼金額:不明

狙撃場所:中国 北京

殺害人数:1人 中国情報通商部 陳

 

ホワイトハウスでは、世界情勢について会議が行われていた。オバマ大統領らしき人物が、中東のジャスミン革命やエジプトの独裁者ナバラク大統領をどうするか、について話している。民主主義は大事だが、地政学的な意味と原油が大事だ。オニール国務次官補の提言で、ダブルスタンダードになっても、アメリカの国益を重視する政策をとることになった。

オニール国務次官補は、インターネット検索大手のDoodleの交渉をサポートするため、中国に向かった。

中国北京のホテルのオニールの部屋には裸の女がベッドに横たわっていた。中国得意のハニートラップだったが、オニールは香水の匂いでそれに気づき事なきを得た。

 

翌日、情報通商部の陳と海軍の王大佐と、オニールは交渉に入る。

交渉の真っ最中、陳は額を狙撃されて死んだ。

後でこの狙撃がゴルゴ13の仕事だったことがわかる。

 

エジプトでは、独裁者ナバラク大統領に対するデモが激化し、軍もナバラクに反対を表明し、ナバラクは失脚した。アメリカはナバラクを見捨てた。

 

王大佐は、朝鮮戦争を戦った馬将軍に会い、米中対立の時代が来たこと、アメリカの力があなどれないこと、消耗戦なら中国が有利なことを聞く。

 

ジャスミン革命リビア、そしてサウジアラビアに飛び火する。オニールはサウジアラビアに飛び、石油価格を下げるために石油増産を、内務長官に依頼する。

そこに王大佐がサウジアラビアの内務長官のもとに現れ、デモの分断をする代わりに中国への石油供給の増加を依頼する。

 

そんな中、東日本大震災が起こった。アメリカは日本への協力を打診するが、日本がやんわりと断った。円高、株価下落に対して、アメリカと欧州が協力して、協調介入を実施し、円高が収まり、株価も上昇に転じた。

 

中国では、予想以上に早かったG7の素早い対応に驚いていた。王大佐は、次の一手として、ドル安ユーロ高へと導き、ドルを基軸通貨でなくそうとしていた。

 

王大佐は中国の新型原子力駆逐艦に乗り込み、アメリカ軍空母艦隊に向かっていく。オニールは、ゴルゴ13に依頼する。

中国軍新型原子力駆逐艦は、アメリカ軍空母に600mまで接近する。アメリカ軍は先手を打つのを禁じられていた。

 

王大佐はアメリカ軍空母に電話をし、ハワイより西は中国が支配すべきだ、と言う。中国駆逐艦艦長の李が電話を奪って「この男は常軌を逸している」と言うが、王大佐によって殴られて倒れてしまう。

 

王大佐は、爆発しない魚雷を空母に撃つ。これはアメリカ軍への危険な挑発だ。

 

そこへゴルゴ13が到着した。ゴルゴ13は、小型潜水艇に乗り込む。ゴルゴ13の乗る小型潜水艇に、中国軍原子力駆逐艦から魚雷が発射されるが、ゴルゴ13はかわして、小型潜水艇から魚雷を撃ち込む。魚雷は中国軍新型原子力駆逐艦の2本あるスクリューのうちの1本を破壊した。

 

王大佐は、引き揚げていき、ボートの上でゴルゴ13は、葉巻をくゆらせるのだった。

 

国益第一で対立する米中とそれに翻弄される各国の様子が克明に描かれている。

エジプトのナバラク大統領やリビアのサメディ大佐などの独裁者。

民主主義とはほど遠いが原油が出るためアメリカの国益になるサウジアラビア

アメリカの同盟国だが、東日本大震災で大きく傷ついたにもかかわらず、判断できず漂流する日本。

 

前半は国際政治の非情さが簡潔に描かれており、後半はゴルゴ13の水中アクションが描かれた佳作だ。

 

 

『善人の死』(2011/03作品)(脚本協力 ながいみちのり)

■依頼

依頼者:テッドの娘

ターゲット:元警察署長の保安官モーリス

依頼金額:不明

狙撃場所:アメリ

殺害人数・相手:1人 元警察署長の保安官モーリス

 

アメリカのとある町の警察のモーリス署長。家に帰る途中に、知り合いのテッドの家に見慣れない車が止まっていることに気づくが、何もせずに帰宅する。すると、テッドの家で殺人事件が起こり、テッドの娘だけが生き残った。

 

モーリスは「あの時テッドの家に突入していたらテッド家の人達が助かったかもしれない」という後悔の念にさいなまれ、警察を辞め、田舎の保安官になった。

 

その町で小火が起こった。小火の現場から出てきた不審人物を見たモーリスは、教会のバートレット神父の歩き方や後ろ姿に似ていることに気づいた。

 

物的証拠を集め、モーリスは、バートレット神父の逮捕につないだ。

 

その状況をテレビで見た薬物中毒の女は、テッドの娘だった。あの夜、彼女は、カーテン越しに助けを呼んでいたのだが、モーリスが気づかなかったのだ。モーリスは彼女に毎月、金を送っていたが、それを放り投げた彼女。

 

モーリスは、保安官事務所で、テッドの娘がどうしているか、一人思いにふける。次の瞬間、彼の額には銃弾が突き刺さった。テッドの娘は、「今頃、あいつは自分のカネで!」とつぶやきながら、左手に薬物を注射するのだった。

 

タイトルの「善人」は、殺人事件がまさに起こっていることに気づかず突入しなかったことを悔いていた元警察署長の保安官モーリスだ。

テッドの娘がゴルゴ13に頼めるほどの大金を持っていたとは思えないし、元警察署長のモーリスが送った金でゴルゴ13が雇えるとは思えない。

金額はともかく、善人のモーリスが送っていたカネで彼自身が狙撃されるという哀しいストーリーだ。