- 『ペルシャ湾危機(クライシス) 大統領選異聞』(2012/11作品)(脚本協力 横溝邦彦)
- 『父という男』(2013/07作品)(脚本協力 香川まさひと)
- 『STOCK(ストック)』(2012/05作品)(脚本協力 ながいみちのり)
『ペルシャ湾危機(クライシス) 大統領選異聞』(2012/11作品)(脚本協力 横溝邦彦)
ページ数:123
依頼者:EU首脳
ターゲット:イランの地下核施設フォルドゥの濃縮設備の暴走
依頼金額:不明
狙撃場所:イラン 核燃料濃縮設備を備えたフォルドゥの地下施設
殺害人数・相手:2人(フォルドゥの地下施設を警備する兵士)
イラン テヘランでゴルゴ13が逮捕された。
それを目撃した毎日新聞の兵藤が彼を追おうとするが、岸井主筆は彼を止める。
一方、アメリカでは大統領選挙のまっただ中だ。現職の民主党オズマ大統領(オバマ元大統領によく似ている)と共和党のニーム氏の一騎討ちだ。
オズマ大統領にとってのアキレス腱がイランの核問題だった。
イランが核開発を行うと、イスラエルが空爆する。イランが対抗措置でペルシャ湾を機雷封鎖すると世界中の経済に影響が出るからだ。
オズマ大統領としてはイスラエルに空爆はしないでほしい。
大統領選挙にはユダヤ人票の影響も侮れない。共和党のニームとしてはイスラエルに空爆してもらいたい。
両者の政治的な思惑が大統領選に影響する。
イラン・テヘラン郊外のエヴィーン刑務所に収監されたトウゴウ(ゴルゴ13)は女に変装した警官を投げ飛ばした公務執行妨害で逮捕された。
そして、配管工のハタミーとともに脱走した。
イランの核開発を阻止するため、イスラエルでは空爆作戦を検討する会議が開かれ、空爆が困難ではあるが、実行する方針が決まった。
兵藤はエヴィーン刑務所までトウゴウの面会に来たが、トウゴウの脱走騒ぎでそれどころではなかった。
エヴィーン刑務所を脱走したトウゴウとハタミーについてイランでは、そのリスクを調べたが、ハタミーが重要な秘密を知らないただの労働者だとわかり安心していた。
だが、実際はハタミーは、プログラマー室に忍び込みアカウント情報をUSBメモリーにコピーし盗み出していた。そのUSBメモリーをゴルゴ13に渡し、ハタミーは身を潜めることにした。
ゴルゴ13は、高熱に耐える特注バイクを準備した。
ここでゴルゴ13の回想シーンになる。これまで登場してこなかった白人の男がゴルゴ13にイラン地下核施設の破壊を依頼する。その時彼は「5億人が路頭に・・・・」と言っている。アメリカなら3億人。ロシアなら2億人というだろうから、依頼人は誰だろう?
イスラエルによる空爆の可能性が高まりオズマ大統領は焦る。ニーム氏は喜ぶ。
そして2012年11月4日 3:00AM・・・
特殊バイクにまたがるゴルゴ13の回想シーン。
サンマリノ共和国 サンマリノで、石弓職人のクオモの店を訪れたゴルゴ13は、通常80mの石弓を改造し、有効射程150mの石弓とマイクロチップを中に入れても中味が壊れない特注の矢の作成を依頼する。
特殊バイクにまたがるゴルゴ13が万全の警備体制のフォルドゥの地下施設に突入を開始した。ウサギに爆薬を仕掛け枯れ草を燃やしゲリラ部隊の襲撃に見せかけた。
2012年11月4日 3:45AM・・・
イラン側が扉の開閉を確かめるために扉を開けた瞬間、ゴルゴ13の石弓から矢が放たれ、施設内の壁に命中した。
2012年11月4日 3:55AM・・・
核濃縮設備が暴走を始めた。
2012年11月4日 4:10AM・・・
フォルドゥの地下核施設空爆に向かっていたイスラエル空軍機6機が空爆中止命令を受けUターンした。
3日後、CIAは、EU首脳がドイツでゴルゴ13に依頼したことを分析していた。
あるエンジニアが無断で無線LANを設置したことに目をつけ、矢に仕込んだFlameというウィルスで無線LANをハッキングし、遠心分離機を暴走させたのだった。
兵藤は草原を改造バイクで疾走するゴルゴ13の写真を撮影していたが、岸井主筆や記者仲間にその写真の発表を止められた。彼は写真を破いて捨てたのだった。
「5億人が路頭に・・・」というセリフからEUと思いつくべきだった。
大統領選挙中の各陣営の思惑。イスラエルとイランそれぞれの思惑。
ゴルゴ13が刑務所にわざと入り、脱走し、改造バイクで疾走し、フォルドゥの地下施設を襲いながら、矢を放つだけで去った謎。
それらが最後のCIAの分析ですべて伏線回収された。
複雑な政治状況にゴルゴ13のアクションが混じり合い、スリルあふれる傑作だ。
『父という男』(2013/07作品)(脚本協力 香川まさひと)
ページ数:83
依頼者:国立北瀬大学医学部准教授 国分一志
ターゲット:私立慶皇大学医学部主任教授 上松良平の右手小指
依頼金額:不明
狙撃場所:日本 国立北瀬大学医学部屋上が見えるビル
殺害人数:0人
日本・霞が関厚生労働省で「第三者が関わる生殖医療法制化についての審議会」が開催されていた。審議会会場の外で、中央新報記者である鈴木徳一が待機している。
中では、国立北瀬大学医学部准教授 国分一志と私立慶皇大学医学部主任教授 上松良平が議論していた。子どもには精子提供者を知る権利がある、と国分は主張し、上松は反対する。この二人は、性格が似ているが、顔も似ている。
上松の師である吉田教授が、自分の教え子が皆精子提供者であること、吉田教授の下を国分夫婦が訪れていたこと、を鈴木は国分に伝えた。
国分は父親に真相を問いただした。国分の父はそれが本当であることを伝え謝罪した。
国分は上松に、自分の父なのか問うが、上松は回答しなかった。
上松が暴力団関係者と付き合いがあることを、国分に鈴木が伝えた。
国分は学生時代のホームステイ先アメリカ・ワシントンDCの元FBIジョージ・サイモンの元を訪れ、ゴルゴ13とコンタクトする。
上松が国分の元を訪れ、暴力団関係者との関係を語ろうとしたとき、ゴルゴ13の銃弾が上松の右手小指を切断した。
上松が指を詰めたと噂を立てたかった国分だったが、上松の指を探し斎接着手術をした。
病院のベッドの上で上松が国分に「君は自分の子どもの前でどういう男でありたい?」ときく。
「強い男でありたい。」と国分は答えた。
「渡しは息子に負けたくはない。全力で立ちはだかる壁になる。なぜか?いつか潔く息子に負けるために!」と国分の父が語った言葉を上松が国分に伝えた。「常に黒い影がつきまとう。”精子を提供した男”の・・・(中略)・・・”ああ、あっぱり俺は父親じゃないのか”と!こんな恐いことは、ないじゃないか・・・?」と上松が続けた。
そして国分の父が上松を訪ねてきたことも話した。その上で、「父は今回のケースに限らず、その子が自分の子である確証なんてない。(中略)では鑑定をしないと父は父と決められないのか?いや、決められるはずだ!それは意志だ!俺こそこいつの父親だと思う強い意志だ!それだけが男を、父と決めるんだ!」と言う。
国分は上松のDNA検査結果を燃やす。そして、「考えれば、人間社会に一度も”男社会”になんかなったことはない!古代からずっと、”女=母親”社会なんだ!人間社会の中で母親はまさに”神”だ!」と独白し、国分の父に電話をかけるのだった。
生殖医療が進んできて表面化してきた問題について真正面から取り組んだ傑作だ。
父親なら全員この話の中の上松の言葉や国分の父親の考えに同意するだろう。
さいとう・たかをの父性観、母性観を描いた傑作だと思う。
『STOCK(ストック)』(2012/05作品)(脚本協力 ながいみちのり)
ページ数:39
依頼者:なし
ターゲット:なし
依頼金額:なし
狙撃場所:なし
殺害人数・相手:0人
イタリア トスカーナ地方、フィレンツェ
銃床(ストック)職人だったピエールの妻ソフィアが亡くなった。
拳銃を取り出し自殺しようとしたピエールの元にゴルゴ13が訪れストックを依頼した。
ピエールは引退したからと言って断るが、ゴルゴ13は何度もピエールの元を訪れて依頼する。
心臓が悪いピエールが庭で倒れたところをゴルゴ13が救った。
ゴルゴ13の依頼条件は「この俺にとって”最高の道具”にしてくれ。」だけだった。
根負けしたピエールはとうとうゴルゴ13の依頼を引き受けた。
ピエールはゴルゴ13のために静的目標と動的目標の両方を撃てるような可動ストックとグリップを作った。
あと一日で完成という時、ピエールの自宅のそばが火事になり、逃げだそうとしたピエールは大やけどを負った。
病床を訪れたゴルゴ13は完成したストックを受け取り、残りの金をピエールに渡した。ピエールは息を引き取った。
「それで、葬儀を出してやってくれ・・・」とだけ言ってゴルゴ13は病院を後にした。
「単に数値の集大成だけで出来上がったモノより、そこに皮膚感覚の仕上げがなされてこそ道具は生きてくる・・・」というゴルゴ13の言葉や、「数字なんてあくまで補足的なもんだ。最後は自分の、職人のこの手の感覚がストック造りのすべてなんだ。」というピエールの言葉に表現される、ゴルゴ13の、いやさいとう・たかをの道具や職人に対する考え方を描いた極上の短編だ。