私が読んだのは大都社版で、上のアマゾンの手塚治虫全集版ではないので一部異なる点があるかもしれない。
もくじはこちら
汚染された空気の底に住む人類をテーマにした短編集だ。
『ジョーを訪ねた男』
ベトナム戦争で重傷を負った白人のウイリー・オハラは移植手術で助かった。彼は極端な人種差別主義者だった。彼に臓器を提供したのは直前に戦死した黒人のジョーだった。
自分の身体に黒人の臓器が入っていることを知ったオハラはジョーの家を訪ね、ジョーの臓器がオハラの体内で生きていることを記した手紙を燃やす。
彼がジョーの家を出た瞬間、白人への憎悪に燃える黒人たちに射殺されるのだった・・・。
『夜の声』
我堀商事を大会社にした社長我堀英一(がほりえいいち)の趣味は週に一回乞食になることだった。乞食の時に家出娘で前科6犯のユリと出会い恋に落ちる。乞食に恋したユリは我堀と結婚するが、乞食と我堀が同一人物だということは知らない。そして我堀の金を盗み、我堀を殺し、乞食のもとに向かう・・・。
『野郎と断崖』
ナントの刑務所から脱獄した男は、自動車を運転する夫婦を脅すが、パトカーに囲まれ崖の途中の穴にたてこもる。男は夫婦を殺し、赤ん坊だけは助けようと崖の上に息絶え絶えになって登り切った。しかし、そこには警察はいなかったし、彼が抱えていた赤ん坊も服を丸めたものだった。
「その崖を通るものは音に身を震わせ、妄想をえがくという その妄想はあるときは地獄の形相でありあるときは天国の垣間見かもしれない・・・・」というナレーションで終わる。
『うろこが崎』
ネタ探しのためにある港町に滞在していた手塚治虫。
宿の女からうろこが崎という町の伝説を聞き、その場所に行ってみた。
中で男の子が落ちてしまう事故が起こってしまった。
男の子を救うためにマスコミが集まった。そこでインタビューを受けた手塚治虫は漁港の魚が星島化学工場の排水によって魚のうろこがはげてしあmっていることを話してしまった。星島化学工場や漁港の人によってつまみ出された手塚治虫だった。
男の子は一週間海水に浸ったがようやく助かった。しかし彼の皮膚は魚のうろこで覆われていた。
『暗い窓の女』
外山由紀子は大会社の専務栗原の秘書だった。彼女には兄外山義治がいた。実はこの2人は兄妹で恋愛関係にあった。栗原は義治に由紀子を愛していることを伝える。義治は反対し、栗原を殺してしまった。
「なぜ専務を殺したの?」と問い詰める由紀子の声を聞いた下駄警部が専務室に突入すると、義治は窓から飛び降り、それを追った由紀子も飛び降りた・・・
『わが谷は未知なりき』
雷と風のひどい夜。谷の向こうからチャドという男が、父、ジュリ、ロザの三人が住む家にやってきた。
父はチャドに「ほんとうのことをいっちゃならねぇっ」と脅かした。
ジュリは、ここがアメリカのアリゾナ州スカイピークの宇宙基地近くだということ、命令でここから出てはいけない、と信じていた。
チャドとロザは恋に落ちた。しかしチャドは咳が出て、父がチャドを追い出そうとした。チャドとロザは逃げようとするが、谷の向こうにあるはずの町や道路がないことを知る。チャドはそこで真相を語る。ここは流刑星だったのだ。
チャドはロザに殺され、父はチャドによって瀕死の状態になり、流刑星であること、兄と妹で子孫を残してきたことを伝え、息を引き取った。
『囊』
雨宿りした男はリカという女と出会い恋に落ちる。
しかし彼女の家に行くと、母親は「うちにはマリという娘はいるが、リカはいない。」という。男はマリに会うが、姿は似ているが、性格が正反対の女だった。
リカは6月20日にこだわっていたが、その日に何があるか男がマリに聞くと、東大病院に検査入院する日だと答えた。
マリには大きな囊があり、それを除去するのだ。
そして、6月20日、手術が行われ、マリの囊には、一人分の身体のパーツが揃っており、脳まであったのだ。
『処刑は3時に終わった』
元ナチス親衛隊レーバー中尉は銃殺されようとしていた。
彼は彼はフロッシュ博士が発明した時間延長剤を探していた。
拷問の末、フロッシュ博士のばんそうこうに秘密があると見抜き、そのばんそうこうを入手した。
いよいよ銃殺の時、ばんそうこうをなめた。時間延長剤の影響で、銃弾がゆっくり飛んでくる。そのスキに逃げだそうとしたが、この薬の効果はあくまで心理的なもので、自分の動作もゆっくりするのだった。
そして処刑は3時に終わった。
『バイパスの夜』
個人タクシーに乗った客は1億円強奪犯で2人を殺していた。
タクシー運転手の方は、女房の浮気現場を目撃し、女房を殺していた。
そんな話をしていたタクシー運転手と客だった。その話が真実なのかどうかわからない。
休憩地点で、タクシーのトランクからは赤い液体が垂れていた。
そこに偶然いた2人連れが、「あのタクシーは欠陥車だ。ブレーキがきかなくなる。」と言った。個人タクシーはバスに向かって突っ込んでいくのだった・・・。
『猫の血』
映画館にフィルムを届ける仕事をしている男は、ある村にいる妙という女と結婚した。
その村は白猫明神の血をひく家の女だった。風呂に入らず水風呂で行水し、猫舌なのだ。
妙はある時、恐怖に駆られて、東京から離れようとしたが男は止めて出張に行った。
その時、東京に核爆弾が落ちた。
男は出張に行っていたので助かったが、妙は・・・・。
妙の実家に、父親に謝りに行った時、ケロイド状になった白猫が来て、男を見るとニャ~と鳴いた・・・。
『蛸の足』
ある会社の社長が、かつて論戦した組合の元委員長の家を訪ねた。
会社に戻ってきてほしいと依頼するためだった。
男は旅に出た時に病気になっていた。それは身体から足が生えて来る病気だった。男はそれを料理して食べていたのだった。
社長は都会に戻ると、その病気が伝染していることに気づいた。彼の場合、首がどんどん生えてくるのだった。そのため一人しかいないはずの社長室で論戦したり、首を吊ろうとしても多くの縄が必要だった・・・。
『聖女懐妊』
土星の衛星タイタン。そこに住む南川ひろしはA4級型アンドロイドであるマリヤと結婚した。
そこにフォボスの特殊刑務所からの脱走者がやってきた。
ひろしは脱走者に殺されてしまった。マリヤは脱走者達にこき使われていたが、彼らを青酸ガスで殺した。
3年後地球からの連絡員が来てみると、マリヤはひろしそっくりな子どもを産んでいた・・・。
『電話』
学生運動のさなか、委員長の大沢優のところに寺山博子という女から電話がかかってきて会うことになった。しかし、待ち合わせ場所に来たのは別な女で「寺山博子は1ヶ月前のデモで死んだ」と言う。
そして、ある日、学生運動の闘争中、大沢は頭を打って、死んだ。
その晚、電話が鳴り、大沢が寺山博子と会ったこと、一目で恋に落ちたことを話し、それ以後、不思議な電話は鳴らなくなった。
『ロバンナよ』
手塚治虫が学生時代の悪友、小栗のもとを訪ねた。
小栗はロバンナというロバを飼っていた。
夜、小栗の妻がロバンナを刺そうとしていたのを手塚治虫が止めた。
小栗の妻は手塚に「私を連れて逃げて」と言った。小栗は不能者で、残忍な男だというのだ。
手塚治虫は夜逃げだそうとして、小栗に入るなと言われていた地下室に入ってしまった。
小栗は真相を話し始めた。
小栗の研究は物質空間転位装置を発明することだった。
ある時、小栗は妻とロバをその装置で送ってしまった。実験は成功したが、ロバと妻の意識が入れ替わった、と言う。
小栗の妻は「嘘だ~」と叫び、ガスを充満させた。ガスが爆発し、手塚治虫は助かった。風の便りに妻は助かったが精神病院に入ったそうだ・・・。
『ふたりは空気の底に』
熱帯魚の水槽で飼われていたグッピー二匹は幸せだった。ある男が煙草の吸い殻を落とし、ニコチンが水槽の水に溶けていった・・・。二匹は死んだ。「生まれ変わるなら自由のきかない水槽の中ではなく・・・ひろびろとした世界で愛し合おう・・・と・・・」
そして「多発性核ミサイルは・・・世界中に致死量のプルトニウム灰をばらま」いた。
宇宙旅行用のユニット・カプセルの中で2人の赤ん坊が機械に世話されていた。
ジョウとみどりという二人はやがて愛し合うことを学び地上に出て結婚しようとする。地上に出たが、そこは死の世界だった。そしてジョウは言った「こんど生まれるなら・・・・こんなにごった空気の底じゃなくてあのひろい星の世界のどこかに住みたいねえ」
手塚治虫の短編は私は大好きだ。
意外なストーリー展開、少しの無駄もないコマ割り、あっと驚くラスト。どの短編も読み応えのあるとても魅力的な作品だ。