haruichibanの読書&視聴のおと

読書メモや映画やテレビ番組視聴メモです

白土三平・岡本鉄二『カムイ伝 第二部 6』(小学館)(1991/05/01)



f:id:Haruichiban0707:20240401190853j:image


もくじはこちら


f:id:Haruichiban0707:20240401190913j:image



 

●念者〔三〕

 流水(一) 

  冬木道無に笹一角を尾行していた男を斬り殺したことを報告するアヤメ。

  そこへ笹一角(草加竜之進)が、アヤメが斬り殺した男の死体をかついで部屋に入ってきた。この男が自分をしつこく尾行してきたが途中で来なくなったので引き返すと死んでいた、と笹一角が言った。笹一角はアヤメを見ながら「この下手人は素人ではない」と言う。アヤメは表情一つ変えない。道無が屍をむきだしにかついでくることに驚くと、一角は重病の患者を医者のところへ連れて行くと答えるつもりだったと答える。そして道無は死体は自分にまかせてくれ、と言う。

  道無は解剖しながらアヤメに人体の説明をする。そして荷車に乗せてどこかへ運んでいく。笹一角は尾行する。

 

 流水(二) 

  道無とアヤメは笹一角の尾行に気づいている。道無とアヤメを改める武士がいたが、粘土を運ぶ途中と偽る。瓦を焼いている村についた道無とアヤメ。瓦を焼いている男(あとで名前は十蔵とわかる)はアヤメが殺した男が蛇(くちなわ)の辰という岡っ引きであることを知っていた。蛇の辰の遺体を十蔵に預けた道無とアヤメは帰途につく。

  帰途の船には笹一角が寝転んでいた。三人は船で帰る。帰りがけに道無は笹一角に医師にならないか、と奨める。または剣術の道場を開かないか、とも言う。ついでにアヤメをつけるとも言う。アヤメが笹一角にほれていることも話す。聞いた上で笹一角は、アヤメを愛しく思っていること、自分が妻を持つことはかなわないと思っていることを話す。道無は一角がだいぶ重い過去を背負っていることを知る。

  川の流れを見ながら物思いにふける笹一角(草加竜之進)。その時、川原で無抵抗の人達が襲われていた。笹一角は彼らを助けた。そこには日置の山中で旗本・水野十郎左ヱ門たちに追い詰められていたところを笹一角(草加竜之進)に救われた男がいた。そこは、飢饉や年貢が納められず村を捨てた連中が集まった無宿の寄場(スラム)だった。

  話をしている間に安達太郎(あだたら)一家に囲まれてしまった。安達太郎一家は手配師の割元(口入れ屋)で人夫の手間賃の六分をはねる。一方、笹一角が救った男は一分しかとらないため、おどしをかけてきたのだ。

  笹一角に日置で助けられた男は日置の流れ者日州と名乗った。安達太郎一家の用心棒の牢人は腕が立ちそうなので笹一角が出ていく。相手は猪狩芸州と名乗った。そしてやればどちらかが死ぬが、それほどのものはもらっていない、と言って刀を鞘におさめ猪狩は去って行った。

 

 流水(三)

  猪狩芸州は日州と笹一角を連れて安達太郎一家の親分のところに行く。割り付けを二分にしたら身を引くという日州。安達太郎一家の親分は怒る。そして芸州に向かって、「牢人は五万といる。身の程を知れ!」と怒鳴りつける。芸州が鞘に手をかける。笹一角も刀をとる。日州が懐に手を伸ばす。芸州が居合い一閃、安達太郎の親分の首をはねた!

 

 武芸試合(一)

  昨夜から笹一角は冬木道無のところに戻ってきていなかった。心配するアヤメに、道無はそのうち手紙でも送ってくるだろう、と言う。宮城音弥が笹一角のもとにぶらっと寄る。何か確約をお願いしにきたのだったが仕事もあるので引き返した。

  そこに笹からの手紙が届く。深川の戸面原(とずらっぱら)にいるとのことだ。手紙を届けた男は「こんなに駄賃をもらっちまっただ・・・やっぱ先生に言わなきゃなんねかな・・・だまっておらがふところに入れちまってもよかんべ。しかし、弱っただ、これは・・・」と言いながら歩いて行く。それを見つめるアヤメ。

  

 武芸試合(二)

  旗本八千石。青山美濃守の屋敷。旗本の大身、土屋石見守と佐倉十一万石の領主、堀田上野介正信を客に武芸試合を開いていた。石見守が連れてきた大橋豪ヱ門が勝ち残っていた。笹一角が来ることになっていたがまだ来ていない。そこで堀田上野介正信の供の者で居合いの弥山蔵人(みやまくらんど)が大橋豪ヱ門と戦った。弥山蔵人が大橋豪ヱ門の槍の穂先を切り、左腕を斬った。その勝負を幕の後ろで笹一角が見ていた。

  弥山蔵人と笹一角の試合が始まった。一合してともに寸止めして相打ちとなった。堀田上野介正信が笹一角に仕官する気があるか、ときくが、笹一角は断った。少し経つと弥山蔵人は腹を押さえながら、一合したとき柄頭でみぞおちを突かれていたことを話し自分が負けだった、と言った。

  武芸試合の後、酒宴となり、宮城音弥も加わった小姓衆の踊りとなった。土屋石見守が青山美濃守に音弥を譲ってくれ、と言うが、青山美濃守は断る。武辺者の堀田上野介正信は「武士が音曲にうつつをぬかすとは」と怒って席を立とうとする。堀田上野介正信の父は三代将軍家光に仕えて殉死した堀田正盛だ。正信は御詰衆で幕閣内の重要なポストを与えられても不思議がないのだが、なぜか外れていた。実弟の堀田正俊は現将軍家綱の小姓から奏者番を経て若年寄に抜擢される。なんとか青山美濃守がとりなし酒席を続ける。

  土屋石見守が宮城音弥に迫る。音弥は「見れば見るほど見えぬものとは何か?」とクイズを出す。その時に堀田上野介正信は席を立つ。宮城音弥が堀田上野介正信の草履を出す。その時に会話をし堀田上野介正信が月に一度儒者を招くので主の許可が得られたら来るように、と言う。

 

 武芸試合(三)

  ここで場面は流水(三)の後に戻る。安達太郎一家の面々が猪狩芸州と日州と笹一角を包囲してにらみ合う。猪狩が「安達太郎一家の縄張りには興味はない。伝造が二代目をしきるなら俺は出ていく。」という。猪狩ら三人は出ていく。子分のうち二人が猪狩芸州に斬りかかるが返り討ちにあった。櫓の上から鉄砲を撃とうとした男を日州が得意のカブト割りで落とした。

  猪狩芸州は日州と笹一角とともにスラムに行く。雨が降って三日間仕事がないので無宿人達は酒を呑みながら話していた。日州が何人かの人夫に一人の杖突き(指図する現場監督)が必要だが、人がいないという。笹一角が自分がそれをやろうか、と提案する。猪狩は自分は用心棒の方が合っていると言って女を抱きに外出する。それを尾行する笹一角。猪狩芸州は幕閣の中心人物老中酒井雅楽守忠清の屋敷に入っていった。

  ここから日州の過去のいきさつが語られる。日州と清次も浅草の人宿(人足請負業)幡随院一家の世話になって三千石の山田某という武家に下働きに行っていた。清次は二千石の旗本、小堀武右ヱ門の中間になった。清次は日州を兄のように慕っていた。キノコ狩りの最中、マムシに噛まれた日州を献身的に看病した。あるとき清次が小堀武右ヱ門に仕える小草履取りの小姓、沢村梅之助に恋をして、とうとう現場を取り押さえられた。清次はその場でなます斬りにされ殺された。梅之助も必死の抵抗をしたがどうなったかはわからない。

  幡随院長兵ヱの頭も怒り、小堀のところには一切の徒士、中間を回さないように同業者に廻状を回した。小堀は白柄組を使って嫌がらせをするが、幡随院や日州も負けてはいない。そして日州は小堀を殺した。小堀は病死として跡目を継ぎお取りつぶしを防いだが、日州を追い、幡随院長兵ヱの頭を殺した。日置まで追われて斬り死にを覚悟したときに笹一角(草加竜之進)に助けられたのだった。

  清次の墓参りをしながら、日州は笹一角に自分の身の上話をした。その背後に顔に傷のある美少年の坊主がいた。彼が沢村梅之助だろうか。

  江戸の町に戻った二人。道を青山美濃守一行が歩いて行く。その行列には宮城音弥がいて笹一角に挨拶をした。驚く日州に笹一角は、念者のちぎりをかわしていると言う。驚く日州。

 

[感想]

 猪狩芸州はどうやら酒井雅楽守忠清に雇われているようだ。日州の身の上もわかってきた。冬木道無とアヤメが、本当は誰の下で何をしているのか謎だ。笹一角(草加竜之進)は今後何をしようとしているのか?杖突きという現場監督になって建築業界を変えていくのだろうか?

 

●無宿溜(スラム)〔一〕

 杖突き(一)

  堀田備中守正俊が江戸城を退出するとき、笹一角が江戸城で杖突(現場監督)をしているところを見つけた。「いつぞやは楽しかった。また訪ねてこい」と家臣から笹一角に伝えた。

 

 杖突き(二)

  戸面原(とずらっぱら)では、人足の手配をし皆が仕事に出た。女は食事の支度を始める。猪狩芸州は残って昼寝をしている。そこへ編み笠の武士が笹一角を訪ねてきた。武士は堀田備中守正俊だった。もう一人宮城音弥が酒瓶を持って笹一角を訪ねてきた。猪狩芸州はその酒を呑もうと提案するが、音弥は楽しみは後にした方がいいと漢詩を詠って、拒絶する。さらに冬木道無とアヤメも訪ねてきた。冬木道無は酒を呑み始めようと言う。アヤメに酒の肴を買いに行かせる。

  アサリ売りの棒手振は、まるで別人のように大人しい錦源之助だった。

  笹一角らが戻ってきたが、川に男が溺れていた。笹一角が彼を助け、冬木道無が治療を引き継いだ。女達が裸になって男を抱いて助けた。

 

 笹毛(一)

  宮城音弥は錦源之助を追った。彼は笹毛というところで漁師の手伝いをしていた。突然、錦源之助は叫ぶと町に出て金もないのに酒を呑み居酒屋を追い出され殴られた。二日も戻ってこない源之助を心配する漁師の家。先生様から金をもらって源之助を預かっていたようだ。源之助は事故で記憶を失っていた。その家の娘イソは源之助を慕っていた。源之助が戻ってくると抱きつくのだった。

  ある日、漁師は源之助に深川の海辺大工町のはずれの剣術道場まで干物と貝を届けるように頼む。そこの夕雲(せきうん)先生にこの漁師一家は世話になっていた。

 

 夕雲(せきうん)(一)

  海辺大工町のはずれの無住心剣流道場に源之助が行くと、老人を5人の男が囲んでいた。老人は一瞬のうちにその5人を斬り殺した。笹毛の漁師與兵ヱに言われて干物と貝を持ってきた、と行った源之助。老人が夕雲先生だった。源之助は夕雲に弟子にしてくれ、と頼む。夕雲は「漁師さえつとまらぬ者は剣術の修行はつとまらない。一年漁師をやったら弟子にする。」と言う。源之助は5人の遺骸を片付ける。夕雲は酒を呑みながら「よく己を知るのは己だが、一番己を知らぬのも己か」と心の中で呟く。

 

 夕雲(せきうん)(二)

  深川の戸面原に、人々が集まってきた。音弥は読み書きを教え、冬木道無親娘も病人やけが人の面倒をみていた。人が増えたのであっちでは男同士の喧嘩、こっちでは女同士が喧嘩していた。杖突き(二)で登場した溺れた男は房州と呼ばれていた。一人者のサブのところに居候していた。サブの後ろ姿はカムイそっくりだったが、顔は似ても似つかない顔だった。房州は記憶喪失ではなさそうだったが、何か大きなショックを受けているようだった。サブと房州が小舟に乗って漁に出る。房州は魚を見つけモリを投げる時は生き生きとした表情をするのだった。

 

[感想]

 笹一角(草加竜之進)には杖突き(現場監督)の仕事が性に合っているようだ。ぐれてしまった錦源之助はさらに落ちていて記憶喪失になっていた。夕雲という老人は何者だろう。新たに登場した房州も何者だろう。サブはカムイの化身ではないのだろうか。堀田備中守正俊が再登場して笹一角と何を話したのだろうか。いろいろな疑問が湧き出る巻だった。

 次巻も楽しみだ。