haruichibanの読書&視聴のおと

読書メモや映画やテレビ番組視聴メモです

『文明の接近 〔「イスラームvs西洋」の虚構〕』藤原書店(2008/02/25)

Amazonへのリンク

 

■文明の接近 〔「イスラームvs西洋」の虚構〕

■エマニュエル・トッド (著), ユセフ・クルバージュ (著), 石崎 晴巳 (翻訳)

■出版社: 藤原書店 (2008/2/25)

■ISBN-10: 4894346109

■ISBN-13: 978-4894346109

■発売日: 2008/2/25

 

 ハッチントンの『文明の衝突』や「イスラーム教イコールテロリスト。イスラーム教と近代化や民主化は相反していてイスラーム教である限り民主化は無理」という欧米人が持っている"常識"への反論。

 トッドの主張は、「民主化に宗教の影響はそれほど大きくない」むしろ「識字率の向上や家族制度の影響の方が大きい」というものだ。

 トッドの言う民主化のプロセスは、識字率の向上=>家庭内の力関係の変化(父や母は字が読めないが子供は読める)=>家族計画の普及=>合計特殊出生率の低下=>民主化と収斂されるという。この過程でそれぞれの社会の家族制度(外婚制か内婚制か一夫多妻か)や家族に対する価値観(特に女性に対する価値観)によって異なる様相をたどる。

 また必ずしも一本道をたどるのではなく、ジャコバン派やナポレオンによる帝制やナチズムや日本の軍国主義やイランのような宗教国家のような反動的な政治体制が生まれることがあるというが、いずれ、民主主義に修練していく。

 トッドは、識字率や合計特殊出生率の変化や家族制度の事例を多数挙げて主張を補強している。欧米人は民主主義国=キリスト教国vs非民主主義国=イスラーム教国という単純な分類でものを語る。トッドはそれを否定し、同じイスラーム教国でも、北アフリカ諸国と中央アジア諸国とアラブ諸国と東南アジアでは、家族制度が異なり、女性の価値観が異なることを明らかにし、欧米人の単純な図式の危険性を強く主張している。

 

 民主主義国=キリスト教国vs非民主主義国=イスラーム教国という単純な分類の危険性は、トッドの考えに賛同する。また、宗教より家族制度や女性に対する価値観の違いの方が、人々の考え方に与える影響は大きいというのも納得できる。

 しかし、トッドの論は、所々、飛躍があり、納得できない。例えば、国によっては識字率向上より合計特殊出生率低下が先に始まっている国がある。その理由は語られていない。私はそれはテレビの影響ではないか、と思うのだが・・・。また、どんな国も民主主義に収斂化する、というのも、あまりに単純な図式だと思う。さらに、ジャコバン派やナチズムや日本の軍国主義や現在のイランに対する考察も、疑問符をつけざるをえない。

 所々、疑問点はあるが、識字率や出生率低下や家族制度と政治制度を結びつけて考えるという視点は興味深いし、キリスト教vsイスラーム教、あるいは民主主義vsイスラーム教という単純な図式より、トッドの主張は評価できる。