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白土三平・岡本鉄二『カムイ伝 第二部 8』(小学館)(1992/02/01)



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もくじはこちら
もくじには、建白書と罠の間に何もないが、本書中では「瑞賢」が53ページにある。

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●無宿溜(スラム)〔三〕

 常念寺(一)

  笹一角(草加竜之進)らが捕らえられる少し前の話にさかのぼる。
  深川戸面原の無宿溜(スラム)に役人達が押しかけてきて、そこにすんでいる人達の住居を強制撤去した。

 

 常念寺(二)

  冬木道無のはからいで、深川戸面原の無宿溜(スラム)にいた人達が、常念寺に逃げのびた。
  役人達は町奉行ではなく作事奉行の面々だった。
  こに何か怪しい何かを感じた笹一角。
  冬木道無は作事奉行の方を調べることとなった。
  そこに猪狩芸州がやってきた。
  笹一角は堀田備中守正俊に「猪狩芸州が酒井雅楽頭忠清に通じている」と注意する。
  堀田正俊も笹一角に話があるので屋敷に来るようにと言う。
  
  房州が自身の事を語り出した。生まれは九十九里で、地引き網漁の人を雇うために江戸に出てきたが騙されて金を盗まれたのだった。
  行き場を失った深川戸面原の無宿人達に、九十九里に来ないかと誘う。
  
  笹一角も、だいぶ行く気になっていた。

 

 野望(一)

  冬木道無が作事方の岩間という武士のところに治療に行き、深川の戸面原がどうなるか聞き出した。
  河村瑞賢の蔵場と材木置き場ができるのだ。老中が絡んでいることも聞き出した。

 

 野望(二)

  堀田備中守正俊の屋敷に、堀田備中守正俊と冬木道無と笹一角と宮城音弥の4人が集まった。
  堀田備中守正俊が北町奉行の石谷貞清に抗議した。石谷貞清が南町奉行神尾備前守元勝が酒井雅楽守忠清の元に女駕篭で駆け込んだ。
  猪狩芸州が酒井雅楽頭忠清の密偵であることはこの4人の中での共有事項となった。
  酒井雅楽頭忠清の狙いが個人的な野望なのか金なのかはまだわからない。
  天井裏に人の気配を感じた笹一角が槍で突き刺した。
  天井裏には、抜け忍カムイの変装であるサブが潜んでいた。
  彼は生きのびるために情報を得ようとしていたのだった。

 

 建白書(一)

  江戸城の会議
  建白書についてどれを採り上げるか、話していた。
  北町奉行の石谷貞清からの建白書は後刻検討することになった。
  清の圧力を受けている明からの乞使についての建白書は堀田上野介正信からのものだったが、あっさり却下された。
  堀田上野介正信は本来屋敷に待機して待つべき所、江戸城帝鑑の間に詰めていた。
  阿部豊後守忠秋に建白書の詮議状況をきこうとしたが、阿部豊後守忠秋が敵愾心を持っている松平伊豆守信綱が近づいてきたので「いずれ知らせがあろう」と答えて去った。
  そこに酒井雅楽頭忠清がやってきて堀田上野介正信に、弟の堀田備中守正俊が下屋敷の他に通っているところがある、とイヤミを言って去った。

 

 建白書(二)

  堀田上野介正信は、怒って矢を射る。いさめる弟の堀田備中守正俊。兄は弟に別邸でよからぬことをしているのか、と問い詰める。それを酒井雅楽守忠清から聞いたという兄。自分のことは自分で解決するので兄は関わるな、と答える弟。

 

 瑞賢(一)

  河村瑞賢の番頭、音蔵が、深川の戸面原の工事を遠くから見ている笹一角と日州の元に来て、河村瑞賢の所に案内する。武士達を牢に捕らえている間に、住民を追い出して建物を取り壊すよう指示したのが瑞賢か、と笹一角が正面から問いただす。瑞賢は否定し住民に長屋を提供し、日州に労働者の差配も依頼する。

  笹一角と日州が去った後、河村瑞賢は音蔵に、笹一角の正体をきく。音蔵は笹一角が草加竜之進だったことを話す。

 

 罠(一)

  河村瑞賢の提案を、笹一角と日州が皆に話す。喜ぶ一同だが武士達がいない。冬木道無の話では、武士達を捕らえた奉行所与力の所在を突き止めたため出かけたとのことだ。止めるために八丁堀に笹一角が走り、「どうしても行くと言うなら切る」と武士達を止める。猪狩芸州は刀を鞘に収めた。

  そして笹一角のおごりということで船宿の屋形船川名に皆を乗せる。

  もしも奉行所与力向坂甚内を襲ったら陪臣の堀田備中守正俊や宮城音弥にも迷惑がかかること、不逞牢人として皆が処罰されること、今回の一件は相当上の者が関与していることを笹一角は皆に話し納得してもらった。奉行所与力の向坂甚内の居所を教えたのが斎藤と猪狩芸州であることを聞き出した笹一角。

  猪狩芸州はそっと外に出て屋形船のいかりを上げようとしたが、日州に見つかった。

 

 罠(二)

  拷問を見届けた後、向坂甚内が見廻りに出る。引っかかってくるか、と同僚と話す向坂甚内。ひょっとこの面をかぶった忍者が、向坂甚内が歩いている道の近くの瓦を落とし、印字打ちと呼ばれる古武道の技で向坂の頭部に石を命中させた!!ひょっとこの面の下は冬木道無で、屋根の上には忍者姿のアヤメがいた。

 

 罠(三)

  酒井雅楽守忠清の屋敷に、目付の中山主膳と猪狩芸州がやってきて報告した。笹一角が罠を見抜いたためだ。そこに南町奉行神尾備前守元勝がやってきて、向坂甚内が事故死したことを伝えた。猪狩芸州がその時間帯に笹一角らにアリバイがあることを証言した。堀田備中守正俊を陥れたい酒井雅楽守忠清は唇を噛むのだった。

 

 偸盗(とうとう)(一)

  偸盗と書いて「とうとう」とふりがなを振っており、「人の物を盗むこと、または、盗人」と注を入れている。

  ひょっとこやおかめの面をかぶった忍者姿の6人が屋敷に入り、千両箱を盗み出し、人糞を乗せた船に大判小判を隠して川を進む。途中役人にとがめられたが、糞まみれの鑑札を出して逃れる。面の下の顔は冬木道無とアヤメだった。

 

 偸盗(とうとう)(二)

  房州とサブは九十九里に向かった。その他の無宿溜の人々は河村瑞賢のはからいで蔵普請の人足として木場人足宿に引き取られていった。堀田備中守正俊の屋敷に笹一角が向かったが、不在だった。そこに宮城音弥が丁度現れ、笹一角は宮城音弥に話をした。

  数日後、宮城音弥が堀田備中守正俊のもとを訪れ、笹一角が総州(現在の千葉県)に向かったことを話した。また、向坂甚内を襲いに向かった武士達を笹一角が止めたこと、向坂甚内を襲った武士達を不逞牢人として捕らえ、拷問した上で、堀田備中守正俊と宮城音弥を切腹に追い込むための酒井雅楽守忠清の考えた罠だと、笹一角の考えを宮城音弥が堀田備中守正俊に伝えた。

  そこに杢左(もくざ)と呼ばれる堀田備中守正俊の部下が駆け込んできた。昨夜盗賊が入り二千両盗まれたこと、そばに三千両あったがそっちには手をつけなかったことを報告した。堀田備中守正俊は箝口令をしいたが、盗賊達の心当たりはまるでなかった。

 

 旅立ち(一)

  万治三年(1660)、両国橋完成。そこを通って房州とサブが千葉に向かう。そこに笹一角が現れ、牢人達も同道する。冬木道無とアヤメが乗った船まで用意してあり、小網町から小名木川を通り行徳へ向かい、そこから佐倉道を通って九十九里に向かうのだ。置いてきぼりを食った猪狩芸州が川岸を走ってくる。

 

 旅立ち(二)

  次郎丸と言う鳩が殿様の屋敷に帰ってきた。何らかの連絡が入ったようだ。殿様が駕篭で出かける。周囲を守るのは6人だ。その駕篭の前方に虚無僧姿の男5人、後ろからは6人が襲いかかった。襲った虚無僧達のうち9人はその場で死に、2人が逃げた。駕篭の中の殿に「やはり織部助の手のもののしわざでしょうか・・・」ときく家来。「たぶんな・・・奴め、生きておったか・・・」と答える殿様。

  老中酒井雅楽守忠清の下屋敷にその駕篭が到着した。

  かぶりものをしていて顔が見えなかった殿様は猿投沢城一万石の城主、望月佐渡守だった。

  今回の罠はどうやら佐渡守が考えたようだった。

  佐渡守は次の手を仕掛けるのだった。佐渡守は酒井雅楽守忠清に以前から何か依頼していたようでその状況を確認すると、酒井雅楽守忠清は手配済だと答えた。

[感想]

 カミナリがタテガミのように孤猿になり、群れを離れるとは意外な展開だ。そろそろ人間社会の描写に移り、以前の登場人物達の話に変わってほしいころだ。

 

 旅立ち(三)


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上の絵のあたりと思われる場所の2024年の様子
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  九十九里に向かう笹一角達一行を何者かが襲う。前方の敵に向かって走る笹一角。その横をサブが走り助ける。サブは敵にやられて小川に落ちた。道無やアヤメも戦う。房州は気を失っていて全てが片付いてから気を取り戻し驚いた。一行はサブが行方不明になったことに気づいた。猪狩芸州は襲ってきた敵の死体に刺さった武器を見て誰にもわからないようにうなった。

  そして皆で死体を川に捨てた。

 

 地引き網(一)

  九十九里浜の地引き網の様子が描写される。一網270人で引くのだ。とったイワシは干鰯にする。

 

 地引き網(二)

  とうとう九十九里に到着した房州と笹一角とアヤメは船に乗っている。外川浦(銚子)の人々が船で八手網(はちだあみ)という漁法で魚を捕っていた。流木が流れてきて船から一人落ちた。近くにはサメの背びれが見える。落ちた男は伊勢松という男で片足をサメに食べられた。笹一角が海中に入りサメをしとめた。冬木道無が伊勢松を助けた。

 

 地引き網(三)

  猿投沢城一万石の城主望月佐渡守の江戸屋敷。ノスリが、葛の者ノスリ八人衆と刺客十人で笹一角を襲ったが失敗したことを報告した。

  悔しそうに唇を噛む佐渡守だった。

 

[感想]

  老中酒井雅楽守忠清と猿投沢城一万石の城主望月佐渡守がグルで、堀田兄弟を何とか失脚させようとしていることがわかってきた。サブがやはりカムイだったこともわかってきた。河村瑞賢が、酒井雅楽守忠清らの罠の手駒だったのには驚いた。もっとも河村瑞賢に悪意があるようには見えないが・・・。

  冬木道無とアヤメが堀田備中守正俊の屋敷に忍び込み二千両を奪った盗賊だったのは驚いた。この二人はただ者ではないと思ったが、盗賊だったとは・・・。

  房州とともに笹一角(草加竜之進)や冬木道無とアヤメが九十九里に行った。九十九里に向かう途中、小名木川を通り行徳の様子が描かれているのは、この地域に住んでいる者として、なんだか嬉しい。

  九十九里に向かう途中、葛の者ノスリ達が笹一角達を襲うシーンや、九十九里での漁の様子など、どれも一枚の絵となるような緻密な描写が素晴らしい。

  それでいて、誰が誰なのかはっきりわかるように描いているのが凄い画力だと思う。

  この後、物語がどう展開するのか楽しみだ。